第4章 月島夢 後編
蛍の家の前まで来たところで、やっとひとこと
『今日まだ早いから、うちで課題やって行けば』
何となくだが、彼なりの気遣い。
「・・・うん・・」
遠慮がちにひとことだけ返事をした。
本当は、気まずくて帰りたいのもあるけど
蛍から “寄っていけば” なんて台詞、もしかしたらもう二度と聞けないかもしれない。
そう思って、そのまま言葉に流される様に、蛍の部屋へお邪魔した。
お互いに、何を話すわけでもなく、何との言えない気まずい空気が部屋を包む
・・・重たい・・・・
すると、意外にも蛍から話しかけてきた。
『さっきのアレ、ちょっと強く言い過ぎた・・・かも・・・ちゃんと自覚あるから・・』
突然、言葉を濁しながら、独り言の様に呟いた。
“さっきのアレ”が、影山君に対してのことなのか、私に対してのことなのか、定かではないけれど。
彼なりの謝罪
目を合わせない彼に、本当の気持ちなのだと察する。
「・・・ううん・・・」
影山君と上手く話せなくて変な空気になってしまったのは、私にも原因がある。
「私こそ、なんかゴメンね」
そう告げると
目を逸らしていた蛍が、不思議そうにこちらを見て来た。
『?? 何で加菜が謝るのさ』
「え、だって、私のせいで、色々変な雰囲気にしちゃったし・・・」
『馬鹿じゃないの。そういう“自分が悪い”キャラ、やめてよね、面倒臭い』
そう言って、見下す様な顔でこちらを見る。
家なのに、今ここにいるのは“学校の時の意地悪な蛍”だ。
ただ影山君に話かけられただけで、どうしてそんな事言われないといけないの?
ちょっとムッとした。
「なんでそんな事言われないといけないの?私は影山君に話かけられただけで・・・」
そう説明しようとするも
『王様の名前なんか出さないでよ』
不機嫌そうに言葉を遮る。
「だって、名前出さないと話せない」
『名前を出さずに喋る方法なんて、いくらでもあるでショ』
こうやって、言い負かされる。
何か言い返したいのに、上手い言葉が浮かんでこない。
くやしい
どうしても納得が行かなくて、この気持ちをどこにもぶつけられないまま目を逸らす。
また、沈黙が部屋を包む。
お互いに黙ったまま。
折角仲直り出来ると思って来たのに。