第4章 月島夢 後編
そう思ったのも束の間、彼の表情は一気に不機嫌そうなものへと変わっていく。
『こんな所で、何で王様と一緒にいるのさ』
あきらかに不機嫌そうに質問を投げかけてくる。
「あ、部活見に来たら、丁度廊下で会っ・・・」
説明しようとする私の言葉を遮る様に
『ただそこで会ったから話してただけじゃねぇか』
影山が不機嫌そうに答える。
『ただ会っただけにしちゃあ、随分と気まずそうな雰囲気だったけど?』
『あ゛ァ゛!?』
お互い譲らない。
無言のまま睨み合っている2人。
『クソッ・・!』
ハラハラしていると、意外にも影山君がくるりと踵をかえし、歩いて行った。
いつもと違う蛍に、少し驚いた。
いつも人をからかって手玉にとっているのに、今日はあからさまに不機嫌さを前面に出して、突っかかる。
影山君が見えなくなったのを確認して、恐る恐る声を掛ける。
「ごめん、つい名前で呼んじゃって・・・。えと・・・今日、部活は・・?」
『体育館の整備で休み』
あ、そっか、だから制服のままだったんだ。
質問には答えてくれたけど、明らかな短文。
必要最低限での返答。
不機嫌だ。
『何で王様なんかと一緒にいたのさ』
理解できないとでも言う様な表情で一瞬こちらを見て、スタスタと歩き始める。
「部活見に来たら、丁度そこで会って・・・バレー好きなのかって聞かれて・・・」
正直、会話らしい会話もしていなかったので、何て説明したらいいかわからない。
『へぇ』
そう言われて、下駄箱へ歩き始める彼の後ろを、小走りで追いかける。
蛍は背が高いから、必然的に歩幅も大きい。
いつもは私を気遣って、少しだけゆっくり歩いてくれる。
気が付かせない様に、ほんの少しだけゆっくりに。
でも今日は、違う。
それがわざとなのかはわからないけれど、いつもの蛍でないことだけは確かだ。
正門を出てからも、沈黙が続いた。
けれど、蛍は音楽を聴くことはなくて、彼なりに気遣ってくれているんだとわかった。
幸いにも、駅の電車の音や車の騒音で、沈黙はそこまで辛くは無かった。