第4章 月島夢 後編
『蛍が出してくれるケーキって、いつも美味しいよね』
「そう?普通デショ」
彼は表情を変えないまま、ケーキを口に運ぶ。
2人っきり
学校とは違う、穏やかな空気
嫌味も不機嫌さもない、常温の蛍
いつもとは違う彼の温度に、無意識に緊張してしまう。
付き合って、学校では見ない蛍の姿を沢山目にするようになって
“そんな顔もするんだ”
そう思った。
すると、こちらを見た彼と視線がかち合う。
そして、怪訝そうな顔でひとこと
『なに?』
不機嫌とは違う、ちょっと困った様な、そんな顔。
「ううん、別に。何でもない」
学校とは違うね、なんて言ったら、きっと不機嫌になる。
だから言わない。
そんな風に考えていると、必然的に会話が少なくなる。
こうやって2人きりの時は、ちょっと気まずい・・・と思っているのは私だけかも。
もともと蛍はお喋りな方じゃないし、あまり人とワイワイする感じでも無い。
2人でいる時、沈黙が辛い訳じゃないけど、一緒にいて蛍は気まずく無いのかな・・って、ちょっと不安になる。
だからといって、無理に話そうとすると、かえって変な雰囲気になるので余計に逆効果。
山口君はああ言ってくれたけど、“彼女”という役割を担えているのか、凄く疑問だ。
多分、嫌われてないっていう自信はあるんだけど
好かれる確信が持てない
それが本音。
“私のどこが好き?”
蛍にそんなことを聞けるわけもなくて。
そう考え込んでいると、今まで自然に出来ていた動作がぎこちなくなって
『何考えてるのさ』
私の異変に気が付いた蛍から、鋭い質問が投げかけられた。
「えっ!?いや、何でもない、ちょっとボーッとしてただけ」
『・・・男の部屋で気抜くなんて、余裕だね』
そう言って、ニヤリと笑う。
その意味を理解して、急に恥ずかしくなった。
「っ!」
言葉に詰まる。
『何想像してるのさ』
嘲笑う様に私を見る。
恥ずかしさで、口に運ぼうとしていたフォークを持った手が止まる。
この先を期待している気持ちもあるけれど、正直、緊張の方がちょっとだけ大きい。