第3章 月島夢 前編
「でも、月島君って山口君にも嫌味言ってるよね?さっき、気持ちが無い人にはとことん冷たい、って・・・月島君と山口君、本当は仲悪い・・・?」
疑問を投げかける。
『仲が良いとか悪いとかじゃなくてさ、同じ学校だったし、俺が勝手に付きまとってるだけ、かな』
苦笑して答える。
『本当に気持ちが無い人には凄く冷たくするけど、逆に仲の良い人だけに優しくするなんて恥ずかしい事も出来なくて。だから、仲の良い人にも嫌味を言って隠してる。でも本当に嫌だったら、ツッキーは話しかけたりしないから』
ね?と、困り眉のままで笑う。
『今日も部活、見に来るんだよね?』
じゃあまた後で!
そう言って、部室へ向かって走って行ってしまった。
私の手には、クッキーの入った紙袋が残ったまま。
とりあえず、最後の希望を抱いて、緊張と不安とで息苦しくなりながらも、第二体育館へ向かう。
どうしよう、体育館前でクッキーなんか渡したら目立つよね。
しかも荷物になるし。
いつも通りバレーを見に来たって感じで待ってたら誤魔化せるかな。
でも今日紙袋を持ってるって、明らかにお菓子って思われるよね。
答えの無い問題をもんもんを考えていたら、背後から声がした。
『邪魔なんだけど』
振り向いたら、月島が立っていた。
一瞬紙袋を見た気がしたが、何も言わずに体育館へ入ろうと歩いて行く。
「あ、あの、月島君!」
『・・・何?』
無表情のままこちらを振り返る。
数秒の沈黙の後、意を決して伝えた。
「あのね、いつも部活見させてくれてありがとう。その、何て言うか、お礼っていうと大げさなんだけど、よかったらこれ、部活終わって山口君と一緒に食べ・・・」
『いらない』
言葉を遮るように返事が聞こえた。
「・・・・え・・・」
『君わかってる?今日ってバレンタインでしょ?そんな日に、好きでもない相手にお菓子をあげるって、それって凄く失礼だよね』
しっかり告白する勇気も無く、バレンタインというイベントを利用して気を引こうとした。
もしかして、意外とすんなり受け取ってくれるんじゃないか、と思い上がっていた。
今の私は、「好き」という告白もしないまま、“バレンタイン”というイベントに乗っかって“お礼”という外面で本心を隠している。
それは彼の言う通り、本当に失礼だ。