第3章 月島夢 前編
どうやら、日中、渡すタイミングを図っている時に、視線が漏れていたのだろう。
勘違いされてる。
でも、誤解を解きに行くと、余計面倒臭がられる。
どうしたらいいかわからないまま、追いかけることも出来ずに、下駄箱に立ち尽くしていた。
折角作ったクッキーも渡せないまま。
昼間、不機嫌になるのを承知で渡していればよかった?
そんな事を考えていると、山口がバタバタと小走りでやって来た。
『あ、鈴木さん、どうしたの?』
神妙な面持ちで立ち尽くしている私を見て、心配気に声を掛けてくれた。
「えっと・・・あのね、いつもバレー見させてもらってるお礼っていうか、今日バレンタインだから。月島君と一緒に食べて」
そう言って、紙袋を渡す。
「月島君はいらないって言うかもしれないけど」
苦笑いで顔を上げる。
『・・・鈴木さんって、もしかして、ツッキーの事好き・・とか・・??』
「え?」
『あ、いや、ごめん、何となくそうなのかなって』
困ったように眉を下げながら後ずさりする姿を見て、逆に気を遣わせて申し訳ないという気持ちになる。
「・・・うん、実はそうなんだ・・。でも、いつも嫌味ばっかり言われるし、多分嫌われてるけど・・・」
ハハと自虐的な笑いをする。
「だから、いつものお礼として、これ」
そう言って、紙袋を差し出す。
『鈴木さん、ツッキーは鈴木さんの事、そんなに嫌いじゃないと思うよ』
呟く様に話し始めた。
『鈴木さんには自分から話しかけてるし。言葉では優しくないかもしれないけど』
困り笑顔のまま、話を続ける。
『優しい態度を取る事だけが優しさじゃない、中途半端な優しさじゃ何も救われない、傷付けるだけだ、って。だったら、嫌われた方がよっぽど良い、って思ってるんだと思う。だから、気持ちが無い人にはとことん冷たくするんだ。今日のチョコも、実は全部断ってる』
「え・・?でも、チョコ持って・・・」
『下駄箱や机に入っている様な直接渡されなかったチョコはどうしようもないから。でも、直接渡しに来た子のチョコは、気持ちが無いから受け取れないって、全部断ってた』
そうだったんだ・・・