第3章 月島夢 前編
バレンタイン当日。
朝から月島蛍は不機嫌そうだった。
面倒臭そうだった、といった方が正確だろうか。
朝から下駄箱にチョコレートが入っていて、教室の机にもチョコレートが入っていて、昼休みにも他のクラスの女子がチョコレートを持ってきて、既に5個も貰っていた。
『凄いねツッキー』
『山口うるさい』
その会話すら面倒臭いという表情で、いつもの2割増の気だるい様子だった。
確かに、整った顔立ちに背も高い。
愛想はあまり良くないけれど、そこがまた良いという声も多い。
でも、まさかここまで本気のチョコをもらうと想定していなかった私は、出遅れてしまっていた。
結局、手作りクッキーを渡せないまま、放課後になった。
大きなため息が漏れる。
最後の希望を抱いていた放課後も、さっさとどこかへ行ってしまって、渡すタイミングなんて無かった。
仕方ない、山口君に渡そう。
これ以上月島君にバレンタイン関連のものを渡そうものなら、今まで以上の毒舌で返されそうだし。
確か山口君は委員会で残ってる筈。
下駄箱で待ってたら山口君が来るはずだから、“月島君と食べて”って言って渡そう。
そう思って、下駄箱で待つこと15分。
『何してるの?』
下駄箱の横からこちらを見ながら声を掛けてきたのは、月島だった。
驚いた私をよそに、彼は気怠そうに話し掛けて来る。
『もう10分以上待ってるデショ?僕が日直の仕事してる時から下駄箱にいたのが見えたし』
「あ、うん。月島君、日直だったんだ。」
『正確には僕じゃなくて山口が日直。だけど今日は委員会もかぶってたから、僕が代わりに日誌書いて職員室に出してきただけ』
あ、そうだったんだ・・・・。
肩透かしをくらった私とは裏腹に、話を続ける。
『君もこういうイベントに乗っかる人なんだね』
そう言って、チラリと紙袋に視線をやり、馬鹿にした様な見下した表情でこちらを見直す。
「いや、そうじゃなくて」
否定するも、言葉を途中で遮られた。
『今日ずっと山口の事見てたよね。あれだけ見てたら、さすがに気が付くデショ。まぁ、君が誰に何をしようと僕には関係ないから』