第2章 夢の終わり
一悶着の後、教室が居た堪れない空気に支配されること数分。救いの鐘よろしくチャイムが鳴り響く。
(ちょっとやり過ぎたな、、)
唐突に後ろの席の楓 由那とかいう女子に虚をつかれた。いや、いつか誰かに言われるだろうと予測してはいたのだ。たまたまそれが今日になっただけなのだろう。
「なぜ力があるのに努力を怠るの?持てるものの義務に反するわ。」
(ノブレスオブリージュ‥か?)
貴族制度なんて近代では馴染みがないが、それでもその高貴さや俗世から一線を画す世界に憧れる人はいるだろう。
だがこの女子は違うと思った。明らかな敵意、嫌悪感が滲むようだった。そしてその感情を抱くに値する努力をしてきたという自信が、目の奥で深く燃えているようだったからだ。
「楓さんだっけ?どうして俺が努力していないなんて分かるんだ?」
「さっきの授業で君が記憶力があるのが分かった。たぶんそれは皆が理解したことだと思う。」
彼女はたんたんと語り続ける。
「君が先生に対して勇気ある訂正をしたのも分かる。でも君は授業に臨む気がなかった。教科書もない、話も聞かない。それはただ君が持つ記憶力に頼っただけの甘えじゃないの?」
面食らった。
正しくも正しい、解のような言葉だった。更に言えば俺に対して間違いを指摘するのは大人ばかりで、同年代の人間にまともに注意を受ける機会なんてなかったのだから、余計に動揺した。
そして何よりその通りだと思った。俺は甘えているのだ。記憶力と言えば聞こえはいいが、要はチートのようなものだ。
人が眠い瞼をこじ開け、栄養ドリンク漬けで手に入れる知識が、ただの一回の読書で記憶され、更に馬鹿みたいにデカイ無数の引き出しからその記憶をいつだって呼び出せる。
だけど、でも、そんな言葉でこの現状が打開できないのは明らかだった。
そして正直に言葉を返した。
「そうだな。あんたは間違ってないよ。俺は努力をしないし、甘えてる。それはあんたが想像もしないような単純な理由なんだ。」
「理由?」
「ああ、記憶したくないんだ。大事なことも些細なことも。これ以上生き埋めにされるのは嫌なんだ。」