第14章 「 怒涛の一日 」 菅原孝支
「はい!と、いうわけで、こちらが本日の美容室でございます。」
「あ、もう着いたんだ。」
「さ、どうぞ。」
真由は扉を開け、エスコートしてくれる。
男前だな。
「予約してた石井です。彼をイケメンに仕上げてください。」
「あははっ。かしこまりました。」
美容師さんは、真由の言葉を聞き、笑顔で対応する。
「では、お客様はこちらへ。」
美容師に促され、鏡の前へと歩を進める。
「じゃあ、私はここで雑誌見て持ってるね。」
そう言うと、真由はソファーに座り、雑誌を手に取った。
「本日はセットでよろしいですか?」
「はい。お願いします。」
「今日はデートなんですか?」
「え?!…そうです。」
「いいですね~。」
美容師さんは会話をしながら、手際良く髪を整えていく。
「これからはどこへ行かれるんですか?」
「えっと、彼女の実家に…。」
「わっ、ごあいさつ!緊張してます?」
「そうですね…。少し。」
「では、清潔感のある感じに整えていきますね。」
ふと、鏡の端に真由が映っているのが見えた。
うん。やっぱりきれいだ。
圧倒的に整った顔とスタイル。
透き通った肌はあまりにも美しい。
絶対モテるはずなのに、三次元の男に興味が持てないとは。
“もったいない”とすら、思ってしまう。
「彼女に見とれてます?」
「え?!ややっいや、えっと…。はい。」
「ラブラブですね!」
て、照れる。
真正面には真っ赤な顔をした自分が鏡に映る。
は、恥かしい。
自分の顔を見たくなくて、雑誌を手に取った。
「はい、こちら、いかがですか?」
数分後、そう言われてじっくり自分の髪を見る。
やはりプロ、自分で整えるのとはわけが違う。
「ありがとうございます。大丈夫です。」
「彼女にも見てもらいましょう。」
「え?!はい…。」
そう言い、真由の元へと向かう。
なんだろう、この緊張感。
「真由、終わったよ。」
「おー!スガ!!!イケメンになったね~!ばっちり!!」
「いや、照れるから。」
「ははっ、まあ、スガはもともとイケメンだけどね。」
な、ナチュラルに褒める。
男はそういう言葉でその気になっちゃうんだからな!
と、思いつつ、
「まーね。」
と応えるのが精いっぱいだった。