第11章 「 さんかく 」 影山飛雄*月島蛍
「悪い。日向。ちょっと頭冷やしてくる。」
「お、おう。」
俺はひとり、壁トスの練習を始めた。
壁にトスを上げながら、自分の置かれている状況を考える。
「焦ってる」って何で焦るんだ?
月島と真由が仲良くなったから?付き合うかもしれないから?
それのどこに焦る要素があるんだよ。
だって、真由に彼氏ができるように、そう思って動いてきたのは自分だった。
真由に彼氏ができれば、あいつが俺の部屋に来て、俺のベッドで寝転んで、我がもの顔で漫画を読むこともなくなる。
ほら、問題ない。
それを、望んでいたのに。
いざ、その日常がなくなる手前まできて、この焦燥感。
これじゃあ、まるで―――
俺の頭には一つの言葉が浮かんだ。
それを思い浮かべた時、何千、何万とやってきた壁トスをうまく上げることができず、ボールは地面を転がった。
それは、気付かないようにしてきた気持ちだったかもしれない。
気づいてしまったら、何かを失うような気がして。
目を背けてきた気持ち。
“ 真由のことがすき ”
気づいてしまったら取り返しのつかない、気付かなかったころには戻れない 俺の気持ちだった。