第1章 入学と出会いとあの日
蛍から突然キスされて、頭が真っ白になる。
すぐ離れた蛍に目を瞑るように言われた途端に恥ずかしさと共に目を閉じてしまった。
するともう一度唇にあの感触。自分のものではない暖かい感触。
さっきとは違う今度はゆっくりとしたキス。
その唇から言葉では伝えきれないような幸せな気持ちが伝わってきた。
更に回された腕に抱きしめられ密着感が増す。
この幸せな気持ちを伝えようと蛍の服の裾を掴む。
するとフッと蛍が笑った気がした。
それからどのくらいこうしていたんだろう。
どちらともなく離れて、お互いを見つめる。
言葉はいらなかった。
無言の中にもお互いの愛しさが積もってきてくすぐったい感じがした。
その静寂を破るように蛍が一言だけ言葉を発した。
「僕さ、の事〝嫌いじゃない”から。」
初めて名前を呼んでくれた嬉しさと〝嫌いじゃない”の言葉だけでとっても幸せな気分になれた。
だからそんなアマノジャクな蛍に私は素直に答える。
『私〝も”蛍のこと好きだよ。』
その言葉に2人で笑い合った。
私達を呼ぶ声がして私達は何事もなかったように日常に戻った。
そして私は次の日に東京に戻った。
いつもの東京の無機質な生活の中で、大事に持っていたあのキーホルダーが私の心の多くを占め光り輝いていた。
東京に帰って中学生になった私は周りの環境の変化に驚いた。
毎日色んな人から呼び出されて告白をされた。
色んな人の誘いを断るから私には噂が出来た。
〝他校にすごいイケメンの彼氏がいる”
別に彼氏じゃないし、義理立てしている訳でもないのに蛍の顔がちらつくのだ。
ただ単に好きになるような人が周りにいないだけのはずなのに。
…そういえば小学生とはいえ蛍は手が早すぎた。というか慣れていた。
私はファーストキスだったけど蛍は違うんじゃないか。
蛍の事だからすぐ彼女出来て今頃イチャイチャしているんじゃないだろうか。
そんなことが頭に廻って、ネガティブな想いに苛まれ、いつしかあまり蛍の事を考えないようにしていた。
そんな矢先に高校の入学式でこれだ。
忘れられていたと蛍を傷つけてしまった。
更に何故か月島兄の話が出てきた。
…やばい。鞄にあのキーホルダー着けて来ちゃった。
あんな昔の物大切に持ってたら重いって思われちゃうよ。
隠さなきゃ…。