第2章 新学期と新生活と入部
「…思わせ振りな事言わないでよね。期待するデショ。」
そう言う蛍はさっき影山君を挑発した時とは別人みたいだった。
そんな蛍の姿にまた胸が騒めくのを感じながら、私はマンションのオートロックを開ける。
ピッピッピと小気味良い音をさせながら番号を押し、開錠のボタンを押すとドアが開く。
「ふーん。結構簡単な番号なんだね。」
番号を入力している私の真後ろから蛍の声がして思わず声を挙げそうになる。
その声を必死に抑えて耐えるとまた意地悪な顔した蛍がにっこりと笑いながら続ける。
「これで〝合鍵”ゲットだね。」
ーーー月島サン、これ一歩間違えたらストーカーデスヨ。
そんな一言を胸に秘め、玄関の鍵だけはしっかり掛けようと心に誓うであった。。
いつもは一人の帰宅に誰かが一緒にいると思うだけでなんだか心はフワフワで明るくなった。
そんな中、蛍を後ろに従えて901号室の玄関の鍵を開ける。
ドアを開けると人感センサーで玄関の明かりがパッと点く。
途端に広がる見慣れた我が家。
そして気になる蛍の反応。
「へぇ。綺麗にしてるんだね。っていうか広すぎじゃない?」
そう言った蛍は興味有り気に玄関、廊下、リビングを見ながら後ろを付いてきた。
『ここがリビング。適当に座ってて。何か飲み物出すね。それか何か食べる?』
そう蛍に伝えて私のお気に入りのアイランドキッチンへ歩き出す。
蛍はカモミールティーとか飲めるのかな?
いや、やっぱり男の子はコーヒーとか?
うーん。
そう悩んでいるとまた後ろに蛍の気配を感じる。
『ひゃ!』
「何その反応。傷つくなぁ。手伝おうと思っただけデショ。」
思い起こしても最近蛍とは色々、色々、イーローイーロ!あり過ぎた。
そんな相手が後ろに立っていたらそりゃあ驚くだろう。
しかも自ら招き入れたとはいえ自分の家、一つ屋根の下…
だめだ。また気になってきた。
そう考え込む私を知ってか知らずか蛍は続ける。
「親に連絡してないから飲み物だけご馳走してもらっていい?」
『う、うん。カモミールティーとかは蛍大丈夫?コーヒーの方がいい?』
「カモミールティーいいね。僕、甘いもの好きだからコーヒーに砂糖付きでもいいよ。」