第2章 新学期と新生活と入部
どうせ拒否権ないしな。と今日何度目かの諦めを見せて私は蛍に手を繋がれながら歩き出す。
幸い、私の住むマンションはすぐ近くだ。
「ここ?大きいマンションだね。親御さんはもう帰ってるの?」
『あれ?私言ってなかったっけ?両親は2人共国際弁護士やってて今は海外出張中だよ。出張って言ってもあの夏の次の年からだからもうかなりになるけど。』
「なるほど。それで次の年から宮城に来なくなったのか。てっきり僕のキスのせいかと思ったじゃん。
ということはここは新しく買った家ってこと?の家ってどんだけ金持ちなの。」
『金持ちっ!?う、うーん。そう言われたらそうかもなぁ。そんなにお金の話したことないけど。』
そんな他愛のない話をしているといつの間にか蛍の顔を見られるようになっていた。
『あれ?大丈夫になってる。蛍を見ても平気だ。』
「ほんとだ。なんだ、もう終わりか。じゃあ行こうか。」
そう言って蛍は爽やかに笑って家の方向に歩み出す。
『ナニイッテルンデスカ。ウチニハアゲマセンヨ。』
「なんで片言??大丈夫。何にもしないから。」
そんな世界一信用できない言葉を流石に私も信用できないから丁重にお断りする。
ちぇっ。という舌打ちと共に蛍は背を向けた。
「じゃあまた明日。今度は家に上げてよね。」
そう言って蛍は手をヒラヒラと振って帰って行った。
途端にドッと疲れと恥ずかしさと言いようのないモヤモヤが一気に襲い掛かってくる。
振り返らず飄々と歩いていく蛍の後ろ姿を見ながらふと唇を触ってしまう。
思い返される今日の情事にクラクラしながらその気持ちから逃げるようにマンションのロックを解除してエントランスに駆け込む。
今日は長い一日だった。
しかしその後もお風呂に入って鏡に映る時、洗面所で顔を洗う時、事あるごとに唇が気になり私は一晩中恥ずかしさに身を震わせた。
おまけ
岩泉side
ぎゃあぎゃあ騒ぐクソ川の横で俺はさっきの超絶美少女を思い出す。
眩しい?俺が?及川じゃなくて?
言われ慣れないその言葉に恥ずかしくて身悶えしながら、ふと横にいるこのモテ男はいつもこう言われているのかと思ったら腹が立った。と同時にげんこつを食らわせた。
「痛ッ!岩ちゃん!暴力反対!ドS!?」
また会えるかな。あの子。