第1章 入学と出会いとあの日
小学生時代に私は夏休みになると父の実家である宮城によく遊びに来ていた。
宮城には〝ゆうちゃん”という1つ年上の従兄弟がいて、いつも一緒に行動していた。
宮城にいる間、日曜日には父とゆうちゃんと三人で市民体育館でバレーを見に行っていた。
そこで一際目立っていたのは月島兄弟。
特に〝烏野高校”の黒いジャージを着た月島兄の方はアタックが強烈で、レシーブが上手なゆうちゃんからバンバン点を取っていく。
まぁ月島兄とは高校と小学で年齢がかなり離れてたけど。
それでも、すごくすごく尊敬しているゆうちゃんから点数をかっさらっていく姿はとても印象的だった。
月島兄とゆうちゃんが試合をしている時に、私は弟君に体育館の隅で話かけた。
弟君は背が高くていつも見下ろすような形だけど、なんだかその目が優しくて不思議な気分。
『私、!あなたは?弟君』
「…月島蛍。その弟君ってのなんか嫌。」
そう言う弟君の眉間の間には皺が寄っていた。
『え!ごめん。。なんか嫌だった?嫌だったんだよね?ごめんなさい!』
慌てて謝ると今度は逆に弟君が慌てた様子で謝ってきた。
「いや…。僕、いつも優秀な兄貴の〝弟君”って呼ばれてるからあんまり好きじゃなくて…ごめん。」
すまなさそうな声色の彼の顔を覗き込むとちょっと困った顔が見えた。
「…よく考えたら兄貴のこともよく知らない君に〝弟君”って呼ばれても別に大丈夫なんだよね。」
私に、というよりも独り言のように呟いた弟君にほっとしながら私も続ける。
『〝君”じゃなくて〝”。って呼んでよ。』
そう言って微笑むと彼はハッとしたように顔を背けた。
その顔は心なしか赤くなっていた気がした。
そんな私達の間にゆうちゃんの声が響いた。
「おーーーい!2人共!こっちこっち!一緒にバレーしようぜ!!」
『うん!!行くよっ!』
そう言うと彼の手を取り私たちはコートへ駆けて行った。
〝手なんて繋がなくても逃げないよ”
そんな彼の呟きが聞こえたけど、彼の方から更にしっかり握り返されてなんだか胸の奥がきゅっと締め付けられた気がした。