第1章 入学と出会いとあの日
月島side
夏休みの練習にいつもは見慣れない2人組が来ていた。
1人は僕の1つ年上で、僕より凄く小さいのにコート上を走り回ってレシーブをし続けていた。
そのプレーには誰もが息を呑む。
一回り上の相手にも引けを取らない位のレシーブ。
それでもその上を行くのが俺の兄貴。
自慢の兄貴だ。
もう1人は女の子。すごく可愛くてびっくりした。
東京から来ているらしいけど、東京ってすごい所だ。あんなに可愛い子が沢山いるんだろうから。
周りの男の人はみんな釘づけだ。もちろん僕もだけど。
笑った顔も体育座りした姿も、バレーしている姿もどれを取ってもすごくすごく可愛い。
僕とは同い年のその子に僕は興味津々だった。
もちろん僕はおくびにも出さないけど。
また兄貴とあのチビの人が戦っている。
よく飽きないなぁ。という感想と共に勝ち続ける兄貴に誇らしい気分でゲームを見つめる。
その女の子から最初に話しかけられた時はびっくりした。
と同時になんだか…嬉しくてくすぐったい感じだった。
名前を聞いてまた心に甘い感じが広がる。
しかしその後に何度も言われたあの言葉〝弟”
兄貴はずっとすごくて、僕はその優秀な兄貴の所詮弟。
何をしても月島の〝弟”からは抜け出せない。平凡な僕の平凡で窮屈な立場だ。
その気持ちが前面に出すぎてついつい嫌な言い方をしてしまう。
〝ごめんなさい”と謝る彼女にしまったと思って、精一杯説明をした。
と同時にこの子には兄貴のことなんて関係ないんだよなぁと説明しながら自分で納得した。
そんな僕の様子に気付いてか、彼女は名前で呼ぶように言ってきた。
心の中で呼んでみる。
( )
途端に心にほわっと温かい気持ちが流れ込む。
ふと彼女を見ると華のような笑顔がこちらに向けられていた。
間近で直視した僕の顔はさぞかし真っ赤になっていることだろう。
慌てて顔を逸らした僕を見て更にくすりと彼女は笑った気がした。
そこに彼女のいとこからの声が割り込んできて、彼女は走り出す。
僕の手を引いて。
ドキドキしているのは僕だけの気がして悔しくて僕も握り返す。
手を引いて前を走る彼女の顔もほんのり赤い気がするのは僕の都合の良い見解だろうか。
そんな淡い想いが僕の心を占領していた。