第5章 青の対戦と赤の対戦と強豪校
シンと時が止まったように静まり返る体育館。
コート越しの牛島若利が動くのがゆっくり見える。
先程と同じように弧を描くボールに飛び上がり、彼の手がボールに触れる。
と同時に先程よりも熱いゴオッとした熱気を感じた。
---さっきはやっぱり本気じゃなかったんだ…でも。
---取れる。
頭で考えるよりも体が動いていた。
目にも止まらぬ速さで移動しボールを受け止める。
きちんと面でとらえた筈だが、それでも腕との接触面でチリチリとボールの勢いを感じる。
腕に接触している時間なんてコンマ数秒の筈なのに、それでも長く感じていた。
そしていつもならもう自分のボールになっているタイミングなのに、それでもまだ主は牛島若利だと主張しているボールに苛立つ。
---セッターに返すのは無理だ。
一瞬でそう判断し、自コートよりも相手コートへ返すことに専念した。
ボールの勢いを借りて逆回転をかけながら大きく返す。
私の手から離れたボールは相手コートに弧を描いて帰って行った。
ポーン、ポーン、とボールが弾む音が響き渡る。
そして一息置いて牛島若利を見ると彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
と、その瞬間ドオッと隣から衝撃を感じる。
抱き着いてきた衝撃だと気付きその主の師匠を見やると、師匠は泣いていた。
『え!?何、泣いてるんですか!?』
「だって!だって!ほんとに2回目で取っちゃうんだもの!こんなにか細くて可愛いのに凄い!
私、感動しちゃって!!良いの撮れた!ありがとう!」
もう感動した!!といつぞやの首相の様に感動を伝えてくる師匠に圧倒されていると、ふと疑問が沸いてくる。
『あの…撮れたって何が?』
泣きながら支障が指を指した方向にはヒッソリと三脚にカメラがセットしてあった。
いつの間にあんなものが…。
全く以て気付かない私もどうかと思うが、こんな時でも取材根性を忘れない彼女に感服した。
「おい。」
あまりの師匠の勢いにすっかり牛島若利の事を忘れていると彼に話し掛けられた。