第5章 青の対戦と赤の対戦と強豪校
正直に言うと実はこの牛島若利のアタックには見覚えがあった。
数年前に見に行った全国大会のオレンジコートで彼は飛んでいた。
その力強さに目を奪われた。
圧倒的な存在感。
左手から放たれるその圧倒的な“力”に私は魅入った。
そして思った。
---取ってみたいと…
ダン。ダン。とコート越しのボールが地面に叩きつけられる音がする。
その主は牛島若利、その人で。
私はコートを挟んでネット越しにその光景を見る。
こんなに離れているはずなのに圧倒的な存在感と威圧感。
まさに鷲が狩りをする前の獰猛な気配を感じた。
そして一息吸った呼吸音がしたと同時に竹本さんがボールを弧を描いて緩く放った。
と同時に天高く翼を広げて彼は飛ぶ。
そのまま最高到達地点でボールに対して手が振り抜かれる。
その刹那…
ボールは私の横を通る。
言葉では形容し難い感覚だった。
ボールに纏わりついたチリチリとした何かに私の右半身は支配され、まるで自分のモノではないような感覚にさえ感じられる。
これが全国レベル…
『俄然面白くなってきた。』
牛「・・・!?」
---牛若side
は笑っていた。
先程までのあどけなさは鳴りを潜め、そこには冷淡に舌なめずりをするの姿があった。
自分の攻撃を受けた者は皆縮み上がり、畏怖の念を抱いた眼差しを向ける。
だがは違った。
殺しに掛かろうとした俺に対してそれを喜々とし、返り討ちにしようとしている。
本来は捕食者であるはずの俺を捕食対象として見ているのだ。
頭で考えるよりも先に背筋がゾッとする感覚は久しぶりだった。
---これだ。この感覚を味わう為に俺はバレーをやっているのだ。
久しぶりにこの感覚を蘇らせた彼女に敬意を払い、次は全力で仕留めるとしよう。
それが彼女へのせめてもの気遣いだ。
そう固く心に決めて、また俺はポジションにつく。
そして俺の持てる力の全てで彼女の為に渾身のストレートを振り抜いた。