第5章 青の対戦と赤の対戦と強豪校
走る。
走る。
足がもつれてもこの気持ちを伝える為に。
合宿所に着き、ドアを開けて中に入ると中は静まり返っていた。
皆はまだ残っているであろう青城に挨拶したり、練習を持ち掛けており帰るものはいない。
ただ1人を除いては。
いつもは騒がしい合宿所が静かだからか、自分の鼓動がバカでかく感じる。
拒絶されるかもしれない。
また哀しい想いをするかもしれない。
それでも伝えたい。
その一心で愛しい彼の姿を探す。
そして見つけた。
中庭にいる蛍は、クリーム色の柔らかい髪を日に当てたまま物憂げに立ち止まっていた。
その視線の先には蝶がヒラヒラと飛んでいた。
あまりにも絵になる、神聖なその雰囲気に声を掛ける事に迷う。
その蝶が飛び去った後、蛍はようやく振り返った。
そしていつもの表情+少し驚いた様に眉を上げた蛍と視線が交わる。
『蛍、あのね。話があるの。』
「…別に言わなくても分かるよ。この間の返事デショ?他の人が好きだからごめんなさいとかわざわざ言いに来たの?嫌がらせ?天然もここまで来たら殺意湧くよね。ね?聞いてる?」
見当違いの言葉が蛍の口からポンポンと出てくる。
どうやって伝えたら良いのかが分からないが、とにかくその言葉を止めたくて勢いに任せて背伸びをして蛍の口を私の口で文字通り塞いだ。
目を瞑って、ゴチン!と音がするほどの勢いで口を塞いだ私は相当滑稽だっただろう。
触れた唇を今度は離しながら背伸びから元の状態に戻った。
また開いた身長差。
ちらっと上目遣いで蛍を見ると、目を見開いて驚愕の表情を浮かべているのが見えた。
ーーーこれで伝わっただろうか、
そんな私の淡い期待はまた蛍の言葉で打ち砕かれる。
「何なの、コレ。他に好きな人がいる癖に僕の事憐れんでこんな事して嬉しいと思ってるの?バカにしてるの?だいたい昔からそうだよ。人の気持ちも知らないでさ、」
止まらない蛍の誤解に頭が痛くなってくる。
いや、ここまで来てまだ言葉で伝えようとしなかった私が悪い…かもしれない。
あと、ここまで言われる程の態度を取ってきた私が悪い…かもしれない。
言うしかない。
そう決心して、未だ続く勘違い言葉発射中の蛍を見つめる。