第5章 青の対戦と赤の対戦と強豪校
クロは“幼馴染”だ。
研磨もそうだけど、2人共私にとって特別な存在だ。
---じゃあ蛍は?
小学生の頃に出会って、私の心を埋め尽くした“特別な男の子”。
夏休みという短い間だったけどスルッと私の中に入って来て、そこから何年も彼の事を忘れなかったことはない。
ふと視界に自分の鞄が目に入り、外で存在感を放っているキーホルダーが目に入った。
---なんだ、簡単なことじゃないか。あんなキーホルダーを渡してでも繋がっていたかった存在。
---蛍に恋してたんだ。
“人を好きになったことない”と思っていた。
でも、そんなことなかった。
私はしっかりと初恋をしていて、そして今フラれたのだ。
それもこれも浅はかな自分のせい。
目を背け続けた自分のせい。
次の日の朝になっても私の身体と精神的なダメージは消えることがなかった。
何でこんな時に合宿なんだろう…。
最早理不尽にも合宿という事実に当たりたくなる。
それでも一日は始まってしまう。
私は今日も重い体を引きずって調理場で朝食を作った。
1人、また1人と食堂に現れる部員たちに目を向ける。
そしてその中にお目当ての人を見つけた。
『お、おはよ。』
「おはようございます。」
他人行儀に冷たく返され、遠く離れた席に行ってしまった。
元々、小学生の時に出会ってなければこれが当たり前だったのかもしれない。
“月島蛍”という人間は自分から他人に近寄ろうとしないし、手の内を明かさない。
ましてや懐になんて入れようとしない。
今まで隣に来てくれていたことが“奇跡”だったのだ。
遅ればせながらようやく気付いた恋心が、一瞬にして事態を飲み込んで小さく…しぼんでいく。
その後に来た夕ちゃんと田中さんが両隣に座って沢山話しかけてくれたがほとんど内容が入って来ず、私は曖昧に頷くことしか出来なかった。
大好きなコーンスープの味も全く分からなかった。
ただ物理的にも精神的にも離れてしまったこの場所から離れたくて。
現実から目を背けたくて、黙々と手を動かして食事を終わらすようにした。
---ねぇ、蛍。あなたが居なかったら世界から色がなくなっちゃった。
もう一度、傍に行きたいよ…