第5章 青の対戦と赤の対戦と強豪校
蛍の顔整ってるなぁ。
色素薄いし、唇も薄い。
胸板は実は厚い。いや、筋肉隆々って訳じゃないけど身長相応って感じ。
で、いつも石鹸のような香りがしていて…安心する。
あの腕の中にいると愛されていると確信する。
---いつまでも居たいと思ってしまう…
「、おいで。」
その一言に目を見開く。
魔法のような蛍からの“言葉”に身体が勝手に動いた。
吸い込まれるように彼の腕の中に私の身体が納まる。
---抱きしめられている。
その事実に心が沸き立ち、歓喜の声を上げる。
---私、蛍の事……
そしてゆっくりと蛍の顔が近付いてくる。
いつもと変わらないキスのはずなのに、いつもより心が弾んだ。
目を離すのが惜しい位、蛍の顔に胸が締め付けられる。
---ドキドキした。
しかし、あともう少しという所で今日の事を思い出す。
この自分の唇はさっきまでクロのモノを咥えていたのだ。
---その事実に自分の心が冷める。
浅ましく他の男性のモノを咥えた唇で、蛍の唇と交わろうとしていた。
そんな自分に嫌悪感を感じる。
と同時に私はやんわり蛍の胸を押してキスを制した。
途端に今度は蛍の瞳が見開かれる。
「なにそれ。」
『ごめん……今の私にそんな資格ない…』
「何かされたの?音駒に。」
『違う…合意だったし。』
歯切れ悪く全部を言わない私にしびれを切らしたように蛍は言い寄る。
「キスもハグもされてないって言ったよね?嘘だったんだ。」
『嘘じゃないよ!それはされてない。でもそれ以上の事はした。』
「なにそれ。」
それだけ言うとスッと蛍が離れる。
今まであったはずの体温が離れ、髪が濡れていることもあってか一気に体温が下がった。
少し離れた蛍の顔は下を向いてしまっていて表情までは確認できない。
「もういい。」
そしてドアが開け放たれて蛍は出て行き……閉まった。
何の変哲もないそのドアの音が私の耳にはこびり付く。
そしてそれは蛍の心のドアのように感じた。
---どうしてこんなことになったのだろうか。
分かっている。私が自分の気持ちに気付かないフリをして蓋をしたからだ。