第4章 復帰と合宿とお猫様
研磨が抱き着いてきた時には驚いたが、その表情に更に驚いた。
抱き着かれたままの体勢で横にある研磨の顔から、伏せられた瞳と苦し気に寄せられた眉間が苦しさを物語っていた。
そしてその伏せられた瞳からスーっと一本涙が伝い出た。
こんな顔にさせてごめん。
よく考えたら逆の立場ならどうだっただろう。
研磨が居るはずの空間に居なくて、連絡まで絶たれたらそこに感じるものは“拒絶”だろう。
私は彼らに決断を鈍らせられないように連絡を出来なくしたのだが、それは自分勝手だった。
相手の事を考えた事なんてなかった。
“私が”“私にとって”と自分の事しか考えていなかった己の行動に嫌悪感を感じる。
『ごめん……。研磨。そんなつもりなくて、私2人に話したら決心が鈍ると思って話せなかったの。でも自分のことしか考えてなかった。ほんとにごめん。』
私の紡ぎ出す言葉に研磨は黙って聞いてくれ、頷いてくれた。
その様子に私も涙が溢れてくる。
「誰だー!騒いでるのはー!そろそろ槻木澤高校に出発するぞーー!」
そんな大人の男の人の声がして私達は飛び退く。
サッと涙を拭いて声のした方を見るとコーチだろうか、ガッシリとした体格の人が立っていた。
直「なんだぁ?烏野のジャージじゃねェかー敵情視察か??」
『ち、違います!!』
あらぬ疑いを掛けられた私は背筋を伸ばしながら、ピシッとして否定をする。
そんな様子を見てまたクロがフォローしてくれた。
黒「コイツ、3月まで音駒に住んでて俺と研磨の幼馴染なんです。で、慣れてないこの町で迷子になってここで保護したんです。、この人はウチのコーチの直井さん。OB。」
直「へー。音駒に居たならウチに来てたら良かったのに。疑ってすまんな。」
そう言って笑うコーチに“いえ。”と言いながら会釈をする。
またクロに助けられた。
その大人な対応に少しドキッとした。これが大人の余裕かぁ。
蛍のような、大地さんのようなクロに翻弄されっぱなしの事実に少し恥ずかしくなる。
黒「ついでだし、コイツを槻木澤との試合のマネージャーやってもらいましょうよ。はベストリベロですし。レシーブ練にも最適ですよ」
前言撤回。クロは使えるもんは使う奴だった。
恥じらいを返せヴォケッ!←