第1章 壱
「それじゃあ、また帰りに!」
「うん、教室に迎えに行くね」
彼女のクラスはよく合唱の練習をしている。自主的に、クラス全員が。
私だったらそんなの無視して帰る…わけにはいかないから、何かしら理由をつけて帰ったりするけどな。
教室のドアの前に立ったとき、私はいつも迷う。扉を開けて挨拶をするか、自分の席の周辺だけ挨拶するか。
まあ、悩んでも意味のないことだったりするけどね。だって、開ければ
「おはよー!黒田ちゃんおはよー!きょうはツインテールの位置が低いんだね」
ほら、呼んでもないのに元気にやってくる。
「おはよう。違うよ、いつもが高いだけだよ」
そして席に着く。
一番前の真ん中。この席が好きな子は居るだろうか。前方には教師、後方には私以外クラスメイト全員。
なんだか監視されているようで嫌だ
「おはよう。数学の宿題やってくるの忘れちゃった、ノート見せてくれないかな」
忘れたんじゃない。わざと忘れたのだ
「げっ、黒田また忘れたのか。しゃーね、俺優しいから見せたるわ」
隣の男子と喋るため。その口実なのだ。
気があるとかそういうのではない、ただ話す話題がないのだ。男子とキャピキャピ話せるような女子じゃないんで、コミュニケーション能力低いんで。だったら無理に話す必要はあるのか、ないだろう。
けれどあと数ヶ月お隣どうし仲良くやっていくには、ある程度話せないと私の気がすまないのだ。
いまのお隣さんは結構面白かったりする。
最近遠くから転校してきた子で、少し訛りのある喋り方をする。
「で、黒田は宿題家でやる気はないの?俺やったら答え見てでも直ぐに終わらすけど」
「無くはないよ、私は宿題じゃなくて他の勉強をしてるの、だからきっと頭良いよ私」
「はは、何だそれ、俺の方がテスト点数上ですが?」
くそう、ばかにしやがって。あのテストはちょっと苦手なところが出過ぎただけで…
「まあ、頑張れよ数学1時間目やし」
「…まじかよ」
授業終了のチャイムがやっと鳴る。
起立。
礼。