第1章 プロローグ
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「そっかぁ、そんなことが……
まぁオイラおでんが恋人みてぇなモンだから、そういうのには疎いんだけどよ、
これだけはわかる!そんな奴、別れて正解だ!今日別れられてよかったじゃねぇか。」
「うっ、グス、っ」
「ああまた……ほら、泣くなよ!よ~く味が染みたおいしい大根食べて元気出せって!」
「うっ、うっ、あ、ありがとうございますっ」
出汁が効いた大根は、ひとくちひとくちかじるほどに優しさが染み出すようで、
同時に涙もぽろぽろと溢れてくるのだった。
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「ようやく落ち着いたみたいでよかったぜ。」
「はい、あの……いろいろ、ありがとうございました。。話まで聞いてもらっちゃって……。」
「いいんでぇ!客というような客もなし、どっかのクズニートの相手してるよりよっぽどマシでぃ!」
「……?」その言葉に、多少引っかかるものを感じたが、そろそろおいとましなくてはと、財布の中身を探る。
「あの、お勘定……。」
「あぁ、いいんでぇ!奢りだ、奢り。このチビ太の奢りでぃ!」
「え、でも……。」
「泣いてた女の子に払わせるわけにはいかねぇよ!……そのかわり、また食べに来てくれればいいから!」
「ありがとう、ございます……!あの、お名前、チビ太さんって言うんですね……。」
「ん?あぁ、自己紹介が遅れちまったな!俺はチビ太!この屋台で日本一のおでんを作ってる男でぃ!」
「私はすみれって言います……。」
「すみれか、よろしくな!」