第4章 Are you カラ松 giel?
サクっ
すみれの手作りだというそのクッキーは、
口に入れただけでホロホロと溶けていった。
後にほんのりとした甘さと、ほんのすこしのほろ苦さを残して。
「旨い、旨いな。ありがとう。」
そう素直に伝えると、よかった!と満面の笑みを浮かべるものだから、
もっと喜ばせたくなってしまう。
「お菓子はね、結構好きで自分でもよく作るの。
この前はガトーショコラなんかもつくったなぁ。
気に入ったならまた作ってくるよ!」
「……すみれの作ったものならなんでも旨いだろうな。」
「そんなことないよぉ!たまには失敗だってするし。」
旨いのは当たり前だ。すみれが心を込めて作ったものには、
すみれの魔法がかかっているのだから。
それにしても、なんて楽しそうに話すのだろう。
「本当に、お菓子作りが好きなんだな。」
「うん!……って、あ!ご、ごめんなさい!つい、楽しくて、タメ口に……。」
「いいさ!というか、これからはそうして話してくれないか?そっちの方が仲良くなれるだろ?」
「そうだね!あ、クッキーを2人で食べたこと、みんなには秘密だよ?
私とカラ松くんだけの秘密ね!」
ふふっ、と笑った彼女に、俺はもう骨抜きにされてしまったようだ。
「お~い、すみれちゃーん!!」
その声に振り向くすみれ。
声の主は、見なくても分かる。
俺の兄貴、おそ松だ。
「あ、こんにちはー!今日も来てくださったんですね!」
「うん!俺すみれちゃんのこと大好きだもん!」
おおっぴらに好意をさらけだしている、兄貴。
その言動がいささかおじさんじみているのは否めない。
が、いいなぁ、とすこし思う。
俺もあんなふうに好意を伝えられたら。
君が俺を見る目も、少しは違うのだろうか。
「カラ松兄さん、抜けがけ~?」
他の5人より先に着た俺に、トド松が眉をひそめている。
「大根、一丁あがりっ!!」
いつの間に注文したのだろうか。
一松がもくもくと大根をかじっている。
「あ、今日はクッキー作ってきたんですよ!後で皆で食べましょうね!」
つまらなかった日常もすみれがいるだけで、魔法がかかったようだ。
いつか、伝えてみせる。
俺の、この、燃えるような気持ちを……。