第1章 プロローグ
最悪だ。
「うっ、うっ……」
泣きながら街を歩き回っていた。
人の目が刺さっている感覚なんか気にもならなかった。
ただ、ただ、悲しくて。ただ、ただ、虚しくて。
2年も付き合った彼氏に振られた。
貢ぎまくった挙句、浮気されて振られるなんて……。
どのくらい時間が過ぎただろうか。
気がついたらあたりは薄暗くなっていた。
落ち着いてきたところで肌寒くなってきたようだ。
ふと、薄暗いなかでボンヤリと屋台のようなものが見えた。
「ハイブリットおでん……?」
「お!ねーちゃん、よかったら食べていくかい?」
後ろから声をかけてきたのは、どうやら店主のようだった。
「って、ねーちゃんなんだよ、泣いてたのか?!」
ああ、そうだった。と思いだす。鏡を見てこそいないが、
きっと人には見せられないような顔に違いない。
「ほらほら、もう少しで仕上がるからちょっと待ってくんな!」
女の涙には慣れてないと見え、あわてた店主に強引に座らせられてしまった。
*
「どーでぃ!?うまいだろう?」
ニシシ、と店主が自信満々なのもうなずけるほど、とても美味しかった。
「美味しい、です……。」
「そーかぃそーかぃ!ま、うちのおでんは日本一だからな!
こんな美味しいおでん食べたら涙なんて吹っ飛んじまうだろう?!」
「……ですね!」
あんなことがあったばかり。店主の優しい心遣いが、純粋に身にしみた。
「……あのさー、何があったか、話したくなきゃー聞き出さねぇけどよ……その……どうして泣いてたんだ?」
ポツリポツリ、と私は話しだした。