第259章 ---.手を伸ばせども 届かない
臨が普段座っている煎餅座布団とは比べものにならないほどのふかふかな座布団の上に座り その位置を定着させると、彼女は唐突に口を開いた。
「珍しいですね。私用として……朽木白哉として私に来いと言うなんて」
使用人から渡された暖かいお茶を受け取り、臨が口元へと運ぶ。
最高級の玉露であろうそれに舌鼓を打っていると、臨は何も言わない白哉に鋭い視線を向け、口を開いた。
「桜木姫乃のことでしょうか」
「……そうだ」
すると、臨は呆れたように溜息を吐く。
「全く、あの子は学習しませんね。私と朽木家が懇意なのを 知らないなんてことないでしょうに…………で、見合いの話はどう断ったのですか?」
「……結婚を考えているものがいると」
「それで、口下手な白哉はそれだけ言って姫乃の見合いを破談にしたと。…………おそらく、桜木の隠密でも使って君と仲のいい女性を洗い出したのでしょう。不幸中の幸いといえば、狙われたのが私だったということでしょうか」
それに白哉は俯くと、細く謝罪を口にした。
「……すまなかった」
「現世には、"ごめんで済んだら警察はいらない"という言葉があります。…………なんて、流石に言いませんが 他の貴族が標的になっていたら………それこそ誰かしらと婚姻を結ばなくてはいけなくなりますよ」
「…………」
何も言わない白哉に、臨は苦笑いすると、全くとため息を吐いた。
「生徒の不祥事は、先生が請け負うものです。今後無いように気を付けてくれればいい…………ただ、上流貴族達は今回の朽木と桜井の不祥事は見逃さないでしょう。まあ私も貴族の令嬢を叩いたんだから、人の事を言えませんが」
「それはこちらで対応する」
「それでは、そちらはお願いします」
うっすらと笑みを浮かべ、臨が茶を啜り飲み込むと、実は こちらも用があるんですと口を開いた。