第8章 誠凛へ
「名前ちゃん、これやってくれない?」
スクイズのカゴを置いて戻ってきた彼女に相田が渡したのは選手の体調管理をするために使っていた紙。実は帝光に行った際にやってもらおうかという話になったのだが、帝光は人数が多いため今回へ持ち越しとなった
不思議そうな顔をしながら受け取ったが、目を通し内容を理解したのか「はい」と笑ってバインダーに挟んでボールペンを取り出す
「やり方はわかる?」
『大丈夫です』
「じゃあ、頼むわね」
スクイズと同じように体が覚えている。流れに身を任せて該当する欄に記入するためさらさらとペンを走らせていると、ガコッと大きな音が響いた
顔を上げると火神がちょうどダンクを決めており、それを見た瞬間彼女の頭の奥がチリッと燃えるように痛みを発する
『いた…』
パッと何か映像が浮かんだ。火神がダンクを決めると、ゴールが壊れたという1分もない短いものだった
なんの記憶は分からないが思い出せたことに力が抜けてしまい、手に持っていたバインダーとペンが音を立てて落ちる。気づいた相田が苗字を見ると、何かに動揺していたようだったため声をかけた
「…名前ちゃん?」
『今…火神君が、ゴール壊して…た?』
「いやオレ壊してねぇ…よな?」
火神は不安そうに先ほどダンクを決めたゴールを見たが特に何も問題なくゴールはいつもと変わらない
黒子が気づいたのか「あ、あるじゃないですか」と言うと、誠凛のメンバーは「あ~」と言う風にみな頷いた
「海常との練習試合で、火神ゴール壊してたな」
「そんなの昔のことじゃねぇか!」
「でも今ので一瞬を思い出したってことはなんか関係があるんじゃないか?」
練習再開するまで様々な意見が交わされる中、黒子は内心彼女はそこにいなかったのになぜ知っているのか、思い出したのかを疑問に思った
だがそれを聞いても彼女は答えを知らないし、聞くだけ困らせると思ったのでそっと黙っておくことにした