第8章 誠凛へ
「あ、いた苗字!桃井!」
「あれ、かがみん」
『かかかかか火神君!?』
パッと振り返ると火神が軽く息を上げて立っていた。その後ろには目の前の彼よりも息を上げた黒子が溜め息を吐いてから走るのを止めるのが見える
火神が唐突に来たことに思わずドキドキしてしまう。恋だろうか
「…2人が、遅くて…走って…」
「テツくん大丈夫!?」
「いつものことだろ。つーかお前らどうしたんだよ」
『え?』
「待ち合わせの時間から少し経っても来ないから走ってきたんだよ…ったく、心配して損したぜ」
『心配…したの?』
「あ?そりゃすんに決まってんだろーが」
火神からの思いがけない一言に顔が熱くなっていくのが分かる。思わず俯いて顔を隠しながら「ありがと…」と伝えるのが彼女にとって今精一杯できることだった
その様子を見た黒子は大体今の状況を理解した。流石は人間観察をよくしているだけある
「急がねーと怒られんぞ」
「怒られるのボクと火神君だけだと思いますよ」
「なんでだよ!」
「あの人達基本的2人には優しいですから。火神君もですけどね」
図星であるは火神は「そんなことないだろ!」と言ってから来た道を進み始めた
立ったままである3人に急ぐように声をかけ、背を向けた
「かがみんってやっぱり…ねぇ?」
「そうでしょうね」
『えっ、なに?』
「名前ちゃんはいーの!」
『除け者にされたぁ…』
ふざけて頬を膨らませると桃井がその頬をぷにっとつついてきた。カップルか
クスクスと笑いながら少し先でムスッとしている火神の所へと小走りで向かう
何となく、懐かしいと思った。でもそれは懐かしいという感覚だけで別に何かを思い出した訳では無いし、そもそもこの感覚が小走りなのか、小走りなのか、火神がムスッとしてることなのかすらわからない
自分自身の過去の感覚なのかもしれないと言うことで片をつけ、その考えを捨てた