第10章 【underground】
たかがナメクジをゆでただけで、後々ドラコにでかい顔をされるのは御免被りたいクリスは、ならばえも言えぬほど完璧なにきび薬を作ってやろうと、よりいっそう作業に集中した。そのおかげで、30分後クリスの大なべの中には教科書と一寸違わぬ見事なにきび薬が出来上がっていた。
「クリス……クリス!」
後はこれを提出用の小瓶に詰めるだけというところで、切羽詰ったような声でロンが話しかけてきたのでクリスは顔を上げたが、返事をする事が出来なかった。視線の先には困り果てたロンの顔と、淡い黄緑色をしたにきび薬の大なべがあった。本来なら、白っぽい薬が出来上がっているはずである。
「どうしよう、どうしたら良いと思う?何で君はそんなに上手くいったの?」
「知るか、手順を忠実に追っただけ――ハリー、そっちも!?」
「クリス……作り直してる時間、あると思う?」
教室の時計に目をやると、終了時刻まであと15分をきっていた。おそらく間に合わないだろう。クリスが無言で首を振ると、ハリーの頭ががっくりとうな垂れた。
調合中はすさまじい集中力によって気づかなかったが、恐ろしい事に周りの机を見回してみると、半分以上の生徒の鍋から不思議な色をした煙が昇っていた。
だが、それすらもネビルの失敗に比べれば可愛いものだった。何をどうしたのか、突然ネビルの大なべが爆発し、あたりに失敗作のにきび薬が飛び散った。
「この大馬鹿者!!」
すぐさまスネイプが駆けつけ、杖を一振りして辺りに飛散したにきび薬をふき取った。可哀想に、まともに薬を浴びてしまったネビルは顔だけに留まらず、露出した手や首筋にまで大きなおできが出来ていた。
「おおかた火から下ろす前にハリネズミの針を入れたんだろう」
泣きじゃくるネビルを立たせると、スネイプは何故かハリーをにらみ付けた。
「ポッター!何故近くにいながら教えてやらなかったのだ。さては他の者が失敗すれば、自分が良く見られるとでも思ったんだろう、小賢しい。グリフィンドールから1点減点だ!!」
全くの言いがかりだったが、ここまで開き直ると逆に清々しくさえ見える。何か言いたそうなハリーをロンが無言で制止していた。口答えしたらまた減点されるのは確実だろう。ハリーは唇を噛み締めながら、その場はグッと我慢した。