第1章 【深窓のご令嬢?】
これまでの締まりのない態度とは一転、ラジオの話になったとたんパッと眼を輝かせたクリスに、チャンドラーの雷が落ちた。そう、彼女の悪癖とはこれなのだ。
本当にどこをどう育て間違えたのか、クリスは大のマグル好き・マグル製品マニアになってしまったのだ。特に電化製品がクリスのお気に入りであり、何かといってはこうして製品購入のおねだりをしてくる。
「マグルの扱う『ラジオ』だなんう物、絶対にいけません!あんな低脳で、粗野で、自分達の世界しか見ようとしない奴等の作った物なんて!!」
「マグルを馬鹿にするなよ!彼らは魔法無しでここまで文明を発展させ、芸術においても多くの天才を生み出してきたんだ。そして何より彼らの科学力!これについては最早我々魔法使いなど足下にも及ばぬほど独創的で幻想的で、なおかつ画期的な発明ばかり!!……ああ、なんて素晴らしい」
グレイン家はスリザリンの末裔といわれるだけあり、長年に渡り純血の魔法使いだけで家督を担ってきたいわゆる『純血主義』と呼ばれる一門だ。
勿論周りの人達だってほとんどが純血生まれの純血主義で、クリスだって根っからの純血主義に育っていいはずなのに、いつのころからかクリスの興味のほとんどは魔法ではなく、マグル関連ばかりになっていた。これは血統や家柄を重んじる彼らにとってはあるまじき、またグレイン家にとっても忌忌しき事態であった。
もうグレインの名を継ぐものは現・当主のクラウス・グレインとその娘のクリスしかいないのに、当の本人はこの調子である。これでは本来家の者には絶対の服従を誓う屋敷しもべ妖精が、こうも口うるさくなるのも仕方のないことなのかもしれない。
グレイン家はスリザリンの代から合わせ約1000年間も純血を貫いてきた。その偉大さが、クリスにはみじんも理解できないらしい。
「宜しいですかお嬢さま、昔から――」
「えーいっ!うるさい!もうお前の説教は聞き飽きた」
今回も『ラジオ』購入を却下され、おまけに大好きなマグルを馬鹿にされ、ついに癇癪を起こしたクリスはチャンドラーを怒鳴りつけると、ふて腐れたようにソファーに顔をうずめた。そんな様子を見て、チャンドラーは自分の教育の何処が悪かったのか心中で自問しながら、深いため息をついた。