第9章 【予想外】
「聞いてよクリス、実は今日、僕らは一度も間違えずに大広間にたどり着いたんだ」
「それは良かった」
「――って、それだけ?なんだよ、もうちょっと驚いてくれたって良いだろ」
ハリーとロンは、いつもクリスが半分眠っているくせに無事に大広間に着く事ができる事を不思議がっていたが、クリスにしてみれば不思議に思うことが不思議だった。
何故だか知らないが、これまでにクリスは1度も道に迷った事がなかった。それは魔法使いが稀に持つ先天性の魔力の現われなのか、はたまた幼い頃から鬱蒼と生い茂るサンクチュアリの森で遊んでいたためかは分からないが、まるで体内に磁石でも備わっているかのように、苦労せずともほぼ直感だけで正確に道を割り出し目的地にたどり着けてしまう。
「1週間たっても道を覚えられないって方が驚くよ」
「僕は1週間たっても朝起きれない君に驚くよ」
「11年続けてきた習慣だ。今さら変える気もない」
初めての朝以来、ハリーもロンも談話室でクリスのことを待つのをやめてしまっていた。それによって自分達は好きなだけ朝食が食べられるし、クリスも好きなだけ寝ていられるので文句は無かった。朝は食事を取れずとも、紅茶を一杯のめればそれでいい。
お手上げだという仕草をするロンに替わり、こんどはハリーが話しを切り出してきた。
「ねえクリス、ハグリッドって覚えてる?ほら、入学式の日に引率してくれた体の大きい人」
「ああ、あのヒゲもじゃの。覚えているよ、私を助けてくれた人だ」
「そのハグリッドがね、今日の午後お茶に来ないかって。一緒に行かない?」
よれた羊皮紙を嬉しそうに握り締めながら、ハリーは期待いっぱいの瞳をクリスに向けた。魔法界に入って初めて出来た友達・ハグリッドに、自分の友達を紹介できるのが嬉しくてしょうがないのだ。もちろんクリスとしても断る理由は無く、2つ返事で承諾した。
「喜んで、ぜひご一緒させていただくよ。もちろん『呪いの杖』も持ってね」