第9章 【予想外】
それだけでも不快だというのに、グレンジャーはこの授業でもひっきりなしに手を上げた。極端に気の弱いクィレル先生はその度に小さく悲鳴をあげ肩をビクつかせ、質問にはいつもどもりながら答えているので、まるで生徒役と教師役が入れ替わっているかのようだった。
クィレル先生といえば、前に大広間で目にした時に手首のあざが疼いた事があったが、あの日以来あざは全く反応を示さなかったし、ハリーも額の傷を痛がる様子を見せなかったので、あれは全くの偶然だったと自分に言い聞かせ、そのうちあざが疼いた事も忘れてしまった。
魔法史の授業は唯一ゴーストのビンズ先生が教えている教科で、息継ぎを必要としない先生の授業は呪文のごとく単調に教科書の内容を呟き、流石のグレンジャーといえど質問する隙を与えなかった。
だがその反面、先生の語り口があまりにも抑揚がなく一本調子のため、退屈すぎて目を開けているのが困難で、面白い授業だなんて口が裂けても言えなかった。
ではどれがクリスのお気に入りの授業かというと、水曜の夜中に行われる天文学の授業だ。ホグワーツ城の中でも一際高い展望台に昇り、望遠鏡を使って美しい夜空を眺め、星を読むという、なんともロマンティックな授業なのだ。空想家で綺麗物好きなクリスにとって、天文学の授業は1週間に1度の夢のような授業となった。
しかし大半の生徒はそうとは思っていないようで、ハリーもロンも「どうして夜中に授業を受けなくちゃいけないんだ」とぶつぶつ文句を言っていた。グレンジャーでさえ眠気のせいか、昼間の授業に比べ積極性は失せていて、この教科だけは終始集中して授業に臨む事ができた。
ホグワーツで最初の一週間が過ぎようという朝、いつもどおり残り10分という朝食時間に大広間に来たクリスは、眠そうに目をこすりながらふらふらした足取りでグリフィンドールの席に着いた。
「おはようクリス」
「ん……お早う」
テーブルの向かいに座る2人の顔は、なぜか朝から得意げに微笑んでいた。何かを話したそうにうずうずしているハリーとロンは、いつ話し出そうかとタイミングを計っていて、丁度クリスが紅茶を注ぎ終わると待ちきれない様子でロンが口を開いた。