第7章 【帽子の王様】
スリザリンの末裔といえど、クリスにとってスリザリンは決して入りたくない寮だ。もし自分の組分けで、帽子がスリザリンの名前を叫んだら、その場で帽子を床に投げ捨てて家に帰ってやろう。クリスはそこまで考えていた。
「グレイン・クリス」
少しずつ生徒が減って行き、ついにクリスの名前が呼ばれると、クリスはぐっと息を呑み覚悟を決め前に進み出た。身の丈以上もある不思議な杖を持つ少女の姿に周りのテーブルから少々ざわめきが立ったが、マクゴナガル先生に目深に帽子を被らせられると、すぐそれも聞こえなくなってしまった。
「――ほお、珍しい。召喚師の血を持つ娘かね」
ざわめきに代わり、耳に入ってきたのは低い男の声だった。いや、耳に入ってきたというのは適切ではなく、むしろ頭の中に直接声が響いてくる。
「よく分かったな、『賢い帽子』というのもまんざら嘘じゃないみたいだ」
「見くびってもらっては困るな。私は偉大なる4人のホグワーツ創設者が魔法を施した帽子だ。どんな力も、どんな野望も手に取るように分かる。例えばそう……君に眠るもう一つの力も」
その言葉を聞いて、まるで心臓をわしづかみにされたような気分がした。汗ですべる杖を必死に握り、帽子を投げつけたい気持ちを必死に押えつけ、皮肉によって平静を装った。
「なるほど、覗き見はお手の物ってわけか。とんだ痴漢だな」
「そちらはとんだ口に減らないお嬢さんだ。そんなに恐ろしいかね?自分の力が周りの人間に知れてしまうのが。それとも、その力に自らおぼれてしまうのが」
なめるのは慣れているが、なめられるのには全く慣れていない。クリスは遠慮なしに言いたいことを言ってくれるこのふざけた帽子を、床に投げつけるつもりで手を伸ばした。
「ならば君に選ばせよう。道は2つに1つ、どちらも辛く厳しい選択となる」
組分け帽子の提案があと1秒でも遅かったら、今ごろ帽子は床の上に転がっているところだっただろう。詳しい事は分からないが、ともかくこれで半ば強制的にスリザリンに入れられることは無いようだ。クリスはゆっくりと帽子に伸ばした手を下ろした。
「1つは己が使命を全うする道。もう1つは己が運命に抗う道。どちらかを選んだかによって、君の未来は大きく変わる。選ぶ権利は君にあるが、さあどうするかね?」