第5章 【最悪の訪問者】
つい先月、父から聞いた事をそのまま説明すると、ロンは納得したように腕組みをしてうんうんとうなずいた。
「なるほど、絆……かあ。けっこう召喚術っていうのも厄介なんだね。僕てっきり呪文唱えれば終わりかと思ってたよ」
「まぁ、そこが魔法と召喚術の大きな違いだな」
「魔法と召喚術ってそんなに違うものなの?僕達じゃ絶対に使えない?」
「まず無理だろうな。昔から召喚術に関する研究は行われてきたし、実際魔法使いでもパトローナスという光の精霊を呼び出す事は出来る。でもそれは自分の魔力で作り出した守護霊でだから、純粋な精霊とは言いにくいし、過去に魔法使いで精霊を召喚できた人物もいないよ」
「そっか……」
できる事なら自分も召喚術を使えるようになりたいと思ったハリーは、それを聞いて残念そうに眉を下げた。
「そもそも、魔法と召喚術はその力の拠り所が違うんだ。魔法は自分の魔力によって術を発動させるものだけど、一方の召喚術は精霊の力を使って術を発動させるものだ。例えるならこのカボチャジュースが私たちで、精霊はカボチャそのものだな」
クリスは車内販売で買ったカボチャジュースのビンを取り出し、2人の少年の前に差し出した。
「このビンが私たちの体だとすると、中に入っているジュースが魔力だ。ビンは個人によって形や大きさ、容量がそれぞれ違う。そしてカボチャからジュースを作り出すのが、召喚術だ」
「つまり、カボチャからジュースは作れても、ジュースからカボチャは作れないって事?」
「御明察。人間がどんな力を手に入れても、大自然の摂理には敵わないのと一緒だよ。だから人間とともに発展してきた魔法とは異なり、姿を変えたり、物を呼び寄せたりといった利便性は全くと言っていいほど無い。」
「へ~、なるほどね。それじゃあ、どっちもどっちって訳だ」
「ま、そういうことだね」
彼らがクリスの話に熱心に耳を傾けてくれるのが嬉しく、クリスは自分の知る限りを答えた。唯一の幼馴染とはこの1ヶ月全く連絡を取っていないし、同年代の子と話すのは久しぶりの事なのでつい口が軽くなる。
いつになく饒舌に喋るクリス達のコンパートメントに、突然よわよわしく扉を叩く音が響いた。