第36章 【痣の秘密】
「結局、君の父上は愛する人を守る為にヴォルデモートに従った。そして12年前、君の母上がその命と引き換えに君を産んだ時、それがもう1つの悲劇の始まりになってしまった。……卑劣にもヴォルデモートは亡き母の代わりに、今度は産まれたばかりの君を人質にしたんじゃ。そしてクラウス同様、いずれは君を配下に加えその力を利用しようと、闇の印をその左腕に刻みつけた」
「それじゃあ……それじゃあ父様が『例のあの人』に従っていたのは、私のため?」
「……よくお聞きクリス、確かにその印を畏怖の対象とする人も多い。だが大切なのはそれを自分がどう感じ、どう受け入れるかなのじゃ。上辺だけを見ていてはならぬ、真実はいつも、その奥深くに眠っているものじゃ」
クリスはもう一度左手の痣を見た。ずっと嫌われていると思っていた、だから関心がないのだと、だから家に居つかないのだとずっと思っていた。それなのに――鼻の奥がツンと痛くなったが、クリスは零れ落ちる涙をなんとか堪えた。
「さてさて、もうそろそろ君も休んだ方が良いみたいじゃな。あんまり長話をしすぎると、身体に障る。本来なら、精霊を召喚するのには君の精神も肉体もまだ幼すぎるんだ。少し休息が必要じゃな」
「そう……なんですか?」
「大きな力を使うには、それに見合うだけの能力が必要じゃ。今回はきっと君の『友を守りたい』という強い気持ちに答え、精霊が力を貸してくれたんじゃろう。しかしその反動は流石に大きかったようじゃな。さあ、今日はもう休みなさい」
ダンブルドアがクリスの左腕を、そっと布団の中に戻してくれた。しわだらけの暖かい手がとても心地よくて、不意にクリスに眠気が襲ってきた。