第36章 【痣の秘密】
「よかろう、だが後悔する事になるかもしれぬぞ?」
「自分で決めた事です。後悔なんてしません」
「そこまで覚悟があるのなら答えよう。――君の腕にある痣、それはヴォルデモートが施した『闇の印』じゃよ。やつは自分の配下の者の中でも、特に側近として仕える者にその印を与えるのじゃ」
覚悟していた事とは言え、その真実はクリスに衝撃を与えた。父の言葉は嘘で、この痣と『例のあの人』が何か繋がりがあるだろうと予想していたが、まさか自分の側近に与えていた印だったなんて。
ダンブルドアは真剣な顔で続けた。
「だがこれだけは言っておこう。初めに君に言った通り、全ては気の持ちようじゃ。君がこの印を恐怖の対象とするなら、この痣は君にとって不幸以外のなにものでもないだろう。しかし君がこの印を別のものと捉えることが出来るなら、この痣は君にとって重要な意味をなすものとなるかもしれぬ」
「どういう事ですか?」
「クリス、君はこの痣が“何なのか”ではなく、“どうして”この痣が自分にあるのか考えてみた事はあるかな?」
クリスは今まで、父から言われていた通り『これは父と自分を繋ぐ印だ』とそう思い込んでいた。何か悪い意味があるにせよ、その言葉に嘘は無いと信じてきたし、痣の出来た経緯なんて今まで考えたことも無かった。だが言われてみれば、どうして当時赤ん坊だった自分に、『例のあの人』が側近の印なんてつけるのだろう。
思い当たる節はただ1つ。あの時『例のあの人』も実際にそう言っていた。
「『例のあの人』は召喚の力が、いや、精霊の力を手に入れたがっていました。だから――」
「クリス、『例のあの人』ではなく、ヴォルデモートと呼びなさい。先入観を無くし、あるがままを受け入れるのじゃ。それはこの痣と、全く同じ事じゃよ」
ダンブルドアは静かに首を振りクリスを戒めたが、クリスにはどうしてもその名前を呼ぶ事が出来なかった。言いかけては止めるクリスに、そのうちダンブルドアは優しくうなずいた。