第4章 【ハリー・ポッター】
フレッドとジョージは口を挟む名も無いほどそれぞれ言いたい事を言い終えると、さっさとコンパートメントをあとにした。
「な、ああやって君のことを知っていても態度を変えないヤツだっているんだし、ホント人それぞれなんだよ」
「その方が嬉しいよ……だって僕、赤ん坊の時の記憶なんて全然ないし、それについ最近まで自分が魔法使いだって事も知らなかったのに、凄いとか言われても……」
どんなに世界的な英雄だろうと、ハリーはまだ自分と同じ11歳の子供なのだ。おとぎ話じゃあるまいし、クリスの思い描いたようなカンペキなヒーローに成長している訳が無い。そんな当たり前のことにクリスはなんだか自分が恥ずかしくなってきた。
「そっか、そうだよな。バカみたいだな、私。でも……そうか、君が本物のハリー・ポッターなのか」
クリスは遠慮がちに上目遣いでハリーの顔を見た。印象的なエメラルド・グリーンの瞳の上に刻まれた稲妻型の傷痕を軸に、英雄ハリー・ポッターと、目の前に座る普通の少年ハリー・ポッターの面影が僅かに重なる。
確かに長年思い描いていた姿とは違っていたが、これはこれで良かったのかもしれない。もしもハリー・ポッターが誰かさん同様、派手な洋服に身を包み、手下を何人も従えて偉そうに「おいお前、僕に席を譲れ」なんて言ってきた日にはショックで取り乱しかねないが、この少年に限ってそれはないだろう。
「そう考えると、君がハリー・ポッターであることに感謝しなくちゃな」
「……それって…どういう意味?」
「秘密だ」
彼の立場を考えると、そうなってもおかしくなかったはずだ。密かにブロンドの幼馴染の事を思い出しながら目の前の現実を受け入れるクリスに、ハリーは不思議そうに首をかしげた。
「ま、理想はどうあれ、君達はからかいがいがあって好きになれそうだ。それにさっきは面白いものも見せてもらったしな」
「……そりゃ、どうも」
クリスがまた口端をにやりと曲げると、隣にいたロンがやれやれといった風に息をついた。しかしハリーの方はまんざらでもなさそうだった。クリスが何を考えているのかよく分からないが、何はともあれ期待に添えなかった自分を気に入ったといってもらえて、少し安心したようだった。