第36章 【痣の秘密】
「どこか痛いところはない、クリス?貴女1週間も眠りっぱなしだったのよ」
「い……1週間も?」
「あの時の事、きちんと憶えてる?」
ハリーの問いかけに、クリスはまどろんだ頭で記憶を遡った。たしか不思議な声が聞こえて、そして腕が猛烈に痛んで、そして――クリスは目を見開いた。
「そうだ、ハリー……ハリーの方こそ大丈夫なのか?皆は?みんなも怪我はないのか」
「落ち着いて、僕もみんなも大丈夫だから。目を覚ましたのは君が一番最後だ」
「そうか、よかった……いや、良くない。クィレルは、いや『例のあの人』……そうだ、賢者の石もどうなった?……あれ?そう言えばどうして私はこんなところに居るんだ?ここは……」
「少し落ち着いて、ここは医務室よ。これまであったこと、ゆっくり説明するから」
しかしそうはいかなかった。クリス達の声を聞きつけて、マダム・ポンフリーがカンカンに怒りながら現れた。しかもその後ろには、ダンブルドア校長までいる。
「あなた達、確かここには“ミス・グレインが目を覚ましたら真っ先に知らせる”という約束で入れたはずですよ!それなのに私に知らせもせず、目覚めたばかりの患者を――」
「まあまあポッピー、この子達も1週間ぶりに友達が目を覚ましたから嬉しいんじゃろう。だが悪いが、つもる話はもう少し後に回してもらえんか?」
ダンブルドアの瞳が半月型のメガネの奥でキラリと光った。その隣ではマダム・ポンフリーが「校長先生の言う通りにしなさい」と言う風にうなずいている。ここは従ったほうが良さそうだ。クリスが視線を送ると、3人はうなずき合い、クリスに短い挨拶をしてから医務室を後にした。
邪魔者はいなくなり、マダム・ポンフリーは満足げに微笑みクリスの検診をしようといろいろな器具と薬を乗せたキャリーを引っ張ってきたが、そこでまたも校長の「待った」がかかった。
「あ、いやポッピー、もうちょっと待ってくれんか。この子に大切な話があるのでな、君も少し席を外してもらいたい」
「ですが校長!この子には……」
「ほんの少し、少しだけじゃよ」
校長の穏やかさの中に潜む別の力が、マダム・ポンフリーに有無を言わせなかった。結局、マダムも医務室を追い出されてしまい、ここにいるのはクリスとダンブルドア校長だけとなった。