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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第36章 【痣の秘密】


 クリスは自分の顔が恐怖に引きつるのが分かった。クィレルはもう以前のクィレルではない。ヴォルデモートの操り人形と化した体は、骨が折れ、内臓が潰れていてもまだ動いていた。そして焼け爛れ、剥けた皮が指先まで垂れ下がった手をゾンビのように前に差し出しながら、クィレルは2人に向かって突進してきた。

「ウィンディー……!!」
「遅いっっ!」

 クリスが叫ぶよりも先に、ヴォルデモートが突進してきた。迫り来る恐怖に身を固めるクリスを庇うように、ハリーがクィレルに向かって飛びつき、あらん限りの力でその顔を鷲づかみにした。

「うぎゃああああああぁぁぁ!!」

 クィレルとヴォルデモート、そしてハリーの声が部屋中に響き渡った。ハリーの捨て身の攻撃に、クィレルは断末魔の悲鳴をあげてのた打ち回り、ハリーを振り落とそうとした。しかしハリーも想像を絶する痛みに何もかもを忘れて、ただクィレルにしがみついていた。
 そして激しい痛みにもがく両者とは別に、クリスもまた壮絶な痛みと熱が左腕を焼き付けるのを感じていた。痛みが強くなるほど意識が薄れて、ウィンディーネの気配がだんだんと遠くなってゆく。

 そしてついにウィンディーネの気配がクリスの身体から完全に離れると、いきなり重力が何倍にもなったかのように、クリスの身体が重くなった。
 立ち上がることさえ出来ず、無理に動こうとすると左手首が焼け付くように疼く。こんな痛みは、生まれて初めてだ。

(いや……違う……お前は昔、同じ痛みを体験している)

 聞こえてきたのはクリスの声だった。頭の中から、自分と同じ声を持ったもう一人の自分が囁きかけてくる。
 それは不思議な感覚だった。薄れゆく意識の中で、ヴォルデモートとハリーの叫び声以外に、クリスは内側から語りかけてくる声を聞いていた。自分のものでありながら、誰か他人のような声を聞きながら、クリスの左腕の痣が、今まさに焼き鏝を当てられたように痛み出した。
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