第35章 【水の精霊ウィンディーネ】
ハーマイオニーは寒そうに、体を何度も擦りながらクリス達に今あったことを説明した。部屋に入ったとたんあの炎が出現した事、部屋に置かれた薬の事、そしてその薬を使って次の部屋に進めるのはたった1人だけだったという事。
「――だからダンブルドア先生に手紙を送ってくれってハリーに頼まれて、もう一つの薬を使って私はこちらに戻ってきたのよ」
「それじゃあっ……ハリーは今1人でスネイプと!?」
あの扉の向こうで、ハリーはスネイプと戦っているんだ。もしかしたらスネイプだけではなく「例のあの人」もいるかもしれない扉の向こうで、ハリーはたった独り、賢者の石を守っているのだ。
クリスは炎に包まれた扉を睨み付けた。紫の炎が、まるでクリスを挑発するかのように踊っている。
「ハーマイオニー、後は頼んだぞ」
「頼んだって……貴女、まさか」
「私はハリーを助けに行く。彼を、独りにしておけない」
クリスは立ち上がり、2・3歩扉に近づいた。あの炎に触れたら、どうなるのだろう。瞬く間にその身を焼かれるのか、それとも一生祓えぬ呪が降りかかるのかもしれない。
しかしクリスは迷わなかった。1歩ずつ、だが確実に扉に向かってゆくクリスの背中に、ハーマイオニーの悲痛な声が届く。
「馬鹿なことは止めて!あの炎を見て分からないの?あれは普通じゃない、スネイプの魔法がかかってるのよ。私だってスネイプの薬を使ってやっと潜り抜けてきたのに」
「ああ、だけど……やるしかないんだ!」
魔法のかかった、不気味な紫色の炎。これを越えなければ、ハリーを助けに行くことは出来ない。クリスは扉の前で立ち止まると、この1年間、ずっと己と共にあり続けた召喚の杖を構えた。
強力な魔法を打ち破るには、これしか方法はない。クリスは禁じられた森で素精霊の声を聞いたときの感覚を思い出し、全身を研ぎ澄ませた。