第35章 【水の精霊ウィンディーネ】
「ハリー、ハーマイオニー!無事なのか!?」
叫んでみても2人の返事はない。突然の事に動揺しながらも、クリスはロンの方に駆け寄った。血の気をなくし、手足を投げ出して倒れているロンの肩を揺さぶって声をかけた。
「ロンッ、起きろロンッ!頼む、起きてくれ。大変なんだ!」
しかし相変わらずロンはピクリとも動かない。クリスは全身の血が下がってゆくのを感じた。悪い予感ばかりが頭を巡り、クリスは頭を振ってそれらを振り払うと、あの時に読んだ「緊急!救急!応急処置!~マグル式~」の内容を必死になって思い出そうとした。
「たしか、気絶していると舌が落ちて……そうだ、まずは気道確保だ」
ロンをあお向けに寝かせると、下あごを持ち上げ、頭を後にのけぞらせた。そして口元に顔を近づけ、呼吸の有無を確かめる。が、しばらく経っても何の変化もない。もしかしたら凄く弱く息をしているのかもしれないが、素人のクリスには判断が付かなかった。
「えっと、正常な呼吸が確認できなければ……次は人工呼吸と、心臓マッサージだ」
クリスはそこでピタッと止まった。心臓マッサージはいいとして、人工呼吸はつまり口と口を合わせなければならない。緊急事態なのは百も承知だが、躊躇うなと言っても無理がある。
しかし一刻の猶予も無い。クリスはとりあえず人工呼吸を省略し、心臓マッサージから始める事にした。手を組み、上から力いっぱい垂直に押す度に、何故か涙が溢れそうになった。
クリスは必死だった。頭の中で次々とロンとの思い出が蘇ってきては、目の前の厳しい現実を突きつけられる。
このまま永遠の別れなんて絶対に嫌だ。早く目を覚まして欲しい、早く声を聞かせて欲しい、早く、いつもの笑顔を見せて欲しい。
「……ロン!」
その時だった。バキッという、不吉な感触が手に伝わってきた。冷や汗が頬を伝い、ゆっくり手元を確認する。今自分の手の下にある物は、まぎれもなくロンの肋骨だ。
「ししししまったっ、やってしまった!」
心なしか、さっきよりロンがぐったりしているように見える。もう恥ずかしいだの何だの言っている場合ではない。クリスはマッサージをしていた手を止めると、あごを持ち上げ、ゆっくりとロンの口に息を吹き込んだ。2回ほど息を吹き込み、再びマッサージを繰り返す。