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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第35章 【水の精霊ウィンディーネ】


 相手のビショップがポーンをなぎ倒し、これまでと同じように無造作に足を掴んで放り投げた。もう盤の上には、数えられる程度の駒しか残っていない。
 ここでロンがこれまでにない長考に入った。石でできた馬に跨り、盤上を睨み付けながら必死に次ぎの手を考えている。沈黙と緊張の続く中、ついにロンの眼差しが白のキングを捉えた。

「やっぱり、これしかない。ハリー聞いてくれ、僕が前に進んで相手のクイーンに取られるから……そうしたら次の手で君がキングを取ってくれ」
「駄目だ!」

 咄嗟にハリーが叫んだ。あんな石の塊で殴られたら、一溜まりもない事くらいロンだって分かっているはずだ。しかし、ロンの意志は変わらなかった。

「ハリー、時間がないんだろう。もうスネイプは賢者の石にたどり着いたかもしれないんだぞ」
「だからって君を犠牲にして進むなんて、僕には出来ないよ」
「あいつが賢者の石を手に入れたら、結局殺される事になるんだ。僕も、僕の家族も、そして君達も。ハリー、未来を掴むって……約束しただろう」
「でも……」
「大丈夫だって。僕ってけっこう石頭なんだ」

 皆の方を振り返り、ロンが笑った。だが良く見ると手が震えている。ロンだって怖くないわけはない。だけどみんなの事を思って、必死に耐えているんだ。ハリーはロンの顔をしっかり見ながら、何も言わず頷いた。

「ありがとうハリー。僕の事は気にせず、先に進んでくれよ――ナイトをf4からd2へ!」

 ロンの叫び声が盤上に響き渡る。石でできた馬が命令どおりの位置に移動すると、ロンの読みどおり白のクイーンがロンのほうに向かってゆっくり動き出した。クリスは喉元が詰まったような圧迫感を感じながら、ローブの上から心臓の辺りを強く握り締めていた。
 本当は今すぐ駆けつけたいのに、足が鉛のように重くなって動かない。徐々にロンと白いクイーンの距離が縮まってゆくのを見つめながら、クリスは体中を強張らせた。そしてついにロンの目の前にクイーンが立ちふさがると、その石でできた腕で、ロンの頭を殴りつけた。

「ロンッ!」
「動くなっ!!」

 悲鳴をあげロンに駆け寄ろうとしたハーマイオニーを、ハリーが制止させた。彼も顔を真っ青にし、肩が震えている。

「動いちゃ駄目だ、今動いたら……ロンの頑張りが全て無駄になる」
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