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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第35章 【水の精霊ウィンディーネ】


 ついに命を賭けたチェスゲームが始まった。ロンは黒のナイトと交代し、クリス達にもそれぞれ既存の駒と交代するよう言い渡すと、向かい側に並んだ白のポーンが床をすべるように2歩前に進んできた。同じようにロンも中心のポーンに2歩前に進むように命令した。

「c7のポーン、c5へ!」

 マクゴナガル先生の魔法によって命を吹き込まれた駒達は、魔法界のチェス同様一人でに動く。唯一つ違うのは、その大きさと破壊力だった。

「よしっ!これでまずは1つ目」

 先手を取ったのは、ロン率いる黒側のポーンだった。思わず喜びを胸にする4人の目の前で、黒のポーンが腰に下げたサーベルを相手のポーンに向かって高々と振り上げた。
 とっさにハーマイオニーが悲鳴をあげたが、無慈悲に振り下ろされた石のサーベルによって白のポーンの頭は半分に砕け散り、無表情な顔の欠片が盤の上に転がった。そして黒のポーンは、壊れた白いポーンの足を無造作に掴むと、盤の外に投げ捨てた。
 4人の顔から、笑顔が消えた。

「……g8のナイト、f6へ!」

 ロンは震える声を張り上げ、ゲームを進めた。ここで止めるわけにはいかない。今4人の命はロンの采配にかかっている。それが分かっているからこそ、ロンは弱音を飲み込み、慎重に駒を進めていた。知らず知らずの内に、額に汗がにじんでいる。

「ハリー、そこからf5……あ、いや、右斜め前に3つ…いや4つ進んでくれ」

 マクゴナガル先生の仕掛けた罠だけあって、ロンはかなりの苦戦を強いられていた。それに加え仲間の命を護らなければならないというプレッシャーと、いつもとは違う視点で駒を動かさなければならないという遣り辛さに、ロンの精神力はどんどん削られていった。
 上から盤全体を見下ろすのと違い、今は巨大な駒が立ち並ぶ見通しの悪い盤上を把握しなければならない。初めはこちらが優勢だと思っていたゲームも、気が付くと同じくらい手駒がとられていた。

「……そこから、そう……それで、ルークが……はっ、駄目だ!ハーマイオニー、そこから反対側まで逃げるんだ。君が狙われてる!」

 ハーマイオニーが急いで盤の反対側まで駆け寄った。これでロンが仲間の危機に気づくのも何度目になるだろう。ロンは滴り落ちる額の汗をぬぐった。

「そろそろだ。詰めが、近い」
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