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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第33章 【未来を掴め】


 ハリーがそこで言葉を切った。
 スネイプが賢者の石を手に入れ、「例のあの人」が復活し、そして……。クリスは想像するだけで恐怖が体中を駆け巡った。このままじゃハリーは殺されてしまう。いや、ハリーだけじゃない。ロンも、ハーマイオニーも、ダンブルドアも殺される。もう減点だ退学だなんて言っている次元じゃない。ホグワーツが、この世界事体が再び暗黒の魔の手に落ちてしまうのだ。

(なら、私は……どうなるんだ……?)

 クリスは左手首を握り締めた。純血の人間として、『例のあの人』の支持者の娘として見逃してもらえるのだろうか。それとも純血主義以外の人間として、皆と同じように殺されるのだろうか。だがどちらにしても、未来も希望も待っていやしない。
 恐怖がそれぞれの体を縛りつけ、重い沈黙が玄関ホールを覆い尽くす。それを不意に破ったのは、頬を打つ乾いた音だった。

「……迷った時は、まず自分のやるべき事を決め、そして覚悟を決める。そうさ!」

 ハリーの言葉は他人ではなく、自分自身に言い聞かせていた。自分で叩いた両方の頬っぺたが赤くはれていたが、そのエメラルド・グリーンの瞳は強い意志に輝いている。

「僕はやるぞ。今夜あいつが石を取りに行くっていうなら……その野望を、僕が食い止める!」
「正気かよっ!相手はスネイプ……いや「例のあの人」だぞ!?」
「それがなんだ!結局このまま何もしなくても殺されるなら、僕は戦って死ぬ。僕の両親はそうやってあいつに殺されたんだ。覚悟なら――もう10年前に出来ている!!」

 彼を引き止めるのが不可能な事は、その目を見れば分かった。迷いの無い、真っ直ぐな瞳。その目を見ていると、クリスは今まで悩んでいた事がバカらしく思えてきた。

「ハリー、やっぱり君は私の英雄だ」

 あの時から何も変わっていない、彼の名前を呼ぶだけで、不思議とクリスの中に力が湧いてくる。例え見た目は冴えなくても、長年思い描いた姿じゃなくても、自分の瞳に映るハリーは、やはりあのハリー・ポッターなのだ。

「私も行くよ、ハリー」
「……本当にいいの?死ぬかもしれないんだよ」
「それは違う、生きる為に行くのさ」

 そう言うと、自然と2人の間に笑みがこぼれた。その顔はとても死地に赴く人間の顔ではない。
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