第4章 【ハリー・ポッター】
「あの~……荷物どかしても、良い……よね?」
少年は大変困った様子だった。他に空いているコンパートメントはないし、出発までもう時間もない。少年が恐る恐のクリス荷物に手を伸ばしたとき、彼女の脳裏にふとした悪戯が浮かんだ。
「その杖に触らないほうが良い」
「――えっ?」
今まさに席に座ろうと、少年が召喚の杖に手をかけたのと同時に、クリスは冷たく言った。理由が分からず戸惑う少年の後ろから、また一人今度は背の高い赤毛の少年が姿を見せた。赤毛の少年も座る席を確保し損ねたのか、重そうな古いトランクを両手に抱えて立っていた。
「あの、ここ良いかな?合い席させて……もらっても」
言ったは良いが、このただならぬ空気を読み取ったのか、赤毛の少年の声はちょっと後悔に震えているようだった。この少年に恨みはないが、居合わせてしまったのが運の尽き、黒髪の少年共々ちょっとした小芝居に付き合ってもらうことにした。
「そこの君も、気をつけたほうが良い。その杖は呪われていてね、人の魂を喰らうんだ」
「の……呪われてる?」
「そう、この杖に宿った、魔王サタンの呪いがね」
そう言って赤い瞳を少年たちに向けると、クリスはうっすらと笑みを浮かべた。こんな時ばかりは浮世離れした自分の顔が一層の効果をもたらしてくれる。
その時、丁度いいタイミングでネサラが不気味に泣き声をあげて羽を広げた。その動作に、赤毛の少年は情けない悲鳴とともに腰を抜かして倒れこんだ。
それがあまりに見事だったので、クリスはつい噴出してしまうのを必死に隠そうと 少年たちから顔を背けたが駄目だった。可笑しそうに口を曲げている姿が窓ガラスに映ってしまい、それを目撃した眼鏡の男の子に見事に見破られてしまった。
「あっ!君もしかして……僕達を騙したんだ!!」
「騙したとは人聞きの悪い、ちょっとからかってやっただけだ」
観念して少年達の方に振り返ると、クリスはいつもの嫌みったらしく口の端だけ持ち上げて笑いながら話を続けた。
「それに人の安眠を妨害したんだから、それなりの報いは受けてもらわないと。ま、赤毛の君は自分の運が悪かったと思って諦めてくれ」