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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第4章 【ハリー・ポッター】


 ――夢の中で、クリスは見た事もない光に満ちた花畑の中に立っていた。穏やかな風によって、遙か彼方まで広がる草花にさざなみが立ち、甘い香りとともに優しい音色を響かせている。

 揺れる草木に紛れ、遠くの方から微かに人の声が聞こえてきた。それはまるでクリスを呼んでいるかのように聞こえる。その声に従うように、クリスは駆け足で花畑を駆けた。

 だが一生懸命足を進めているのに、まるで魔法にかかったようにクリスの体はゆっくりとしか前に進んでくれない。もどかしい気持ちを胸いっぱいに、クリスは懸命に草花の中を駆ける。

 その思いに答えるように、ゆっくりとだが、確実にクリスは声の主に近づいていった。耳に心地よい甘い声、そして優しく自分の名をささやいている。顔は逆光でよく見えないが、光に照らされた柔らかな黒髪から、クリスはそれがハリー・ポッターだと確信していた。

(ああ、やっと貴方に会えた……)

 声にならない声が、クリスの胸の中でこだまする。少しづつ近づくクリスに、ハリー・ポッターは優しく手を差し伸べてくれた。そしてついにその手をつかもうとした、その時――


「ねえっ、起きてってば!!」

 突然コンパートメント中に響く大声に、クリスはハッと目を覚ました。寝ぼけ眼で辺りを見回すと、いつの間にかプラットホームには人がごった返し、それぞれ別れを惜しむ家族や、再会を喜び合う生徒たちの姿が見える。そしてコンパートメントの入り口には、クシャクシャの黒髪で眼鏡をかけた冴えない少年がトランクケースを持って突っ立っていた。

「ねえ、座わらせてもらっても良いかな?他はもうどこもいっぱいなんだ」

 恐らく何度も声をかけたのに起きないクリスに痺れを切らせて怒鳴ったのだろう。しかしクリスの態度を見て、少年は一瞬たじろいだように身を固めた。元来愛想のある人間ではないクリスだったが、この時の態度はまさに氷のように冷たかった。

 少年を一瞥したかと思うと、何もいわずにまた窓枠に寄りかかり目を閉じた。折角ハリー・ポッターの夢を見ていたのを妨害されたのだ。むしろこれですんで運がいい方だ。
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