第32章 【禁じられた森で見たもの】
「待って、僕よりクリスを先に連れてってあげてよ。女の子なんだ」
「私なら大丈夫だ、ハリー。それに君とドラコじゃあ、ここから帰れないだろう?」
「でも……」
ハリーが渋っていると、茂みから勢いよく2匹のケンタウロスが飛び出し、クリス達の前に立ちはだかった。1匹は赤い髪の温厚そうな感じがし、もう1匹は猛々しい黒毛のケンタウロスだ。
「話は聞かせてもらったぞフィレンツェ!君はいつからロバに成り下がったんだ?」
「誤解ですベイン!私はただ、この少年を一刻も早くこの森から出してあげたいだけです」
「何を馬鹿げた事を!我々は星を読み、天命に従う。それが我らケンタウロスの使命のはずだ!」
ベインと呼ばれた黒毛のケンタウロスは、激情を押さえきれずいなないた。
「ベイン、少し落ち着いてください。きっとフィレンツェにはフィレンツェの考えがあるんですよ」
「星の啓示に背き、あげくロバのようにその背に人間を乗せ、森を駆ける。それが誇り高きケンタウロスの成すべき事だと言うのか!?」
「ならば問います、ベイン!君はなぜあのユニコーンが殺されたんだと思います?星は君に何を示しました!?」
ベインに負けじと、フィレンツェも怒って後ろ足で立ち上がった。クリス達には何が起こっているのか分からなかったが、このベインというケンタウロスに自分たちが歓迎されていない事だけは分かった。
「どうあっても天に逆らうつもりか、血迷ったかフィレンツェ!」
「ベイン、君がなんと言おうと私はあの赤き星に立ち向かうつもりです。その為なら私は人間とだって手を組みます!」
フィレンツェは無理やりハリーを背中に担ぐと、足早に茂みの中へ走り去っていってしまった。
その場に残されたクリス達とケンタウロス達の間に、気まずい雰囲気が漂う。勘違いを起こされる前に、クリスが先手を打った。
「森に入ったのは謝ろう、だけど私たちも学校側に言われて仕方なく入ったんだ。よければそこを通してくれるかな。私たちも森を出たいんだ」
「そのような陳腐な言い訳で、ここに立ち入った罪を許してもらえると思っているのか?貴様ら人間の都合など、我々の知ったところではない」