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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第31章 【to be or not to be】


 最後の最後にフィルチは冗談にならない嫌味を言い残すと、城へ帰っていった。その後姿に、ハグリッドが悪態を吐いた。見るからに苛々しているハグリッドに、なんだか少しいつもの彼らしくないとクリスは思った。

「時間が惜しいんだ、皆、そろそろ行く――」
「僕は行かないぞ」

 出発しようと背を向けたハグリッドの言葉を、ドラコが遮った。それでなくても青白い顔が、いつもより血の気をなくし震えている。
 ハグリッドはやれやれといった風にため息をついた。

「気持ちは分かる。だがホグワーツに残りたきゃ行くしかねぇ。罰則ってぇのはそういうもんだ」
「こんなの罰則じゃない、趣味の悪い虐待じゃないか!横暴だ!学校側がこんなことを生徒に強要させるなんて、もし父上が知ったら――」
「ゴチャゴチャやかましい!知ったらなんだって言うんだ!!」

 今度はドラコの声を、ハグリッドのうなるような怒号が遮った。一瞬の静寂のあと、ハグリッドの怒りが張り詰めた夜の空気を引き裂いてゆく。

「お前は何か勘違いしているみたいだから俺が言ってやる。いいか、お前の親父がどんなに偉かろうとな、お前はただの生徒だ。ホグワーツの生徒は、ホグワーツの決まりを守る義務がある。それが守れないってぇんならここから出て行け!そして温室みてぇなお屋敷の中で、一生親父の顔色を覗ってろ!そうすりゃお前を甘やかす事しか能の無い両親が、一生お前を守ってくださるだろうよ!」

 言いすぎた。クリスの手は考えるよりも先にドラコのローブを掴んでいだ。純血主義にとって家や家族を貶されるというのは、マグル生まれに向かって穢れた血と言うのとなんら変わりない。それほど彼らの家系に対する誇りは、半端なものでないのだ。
 ドラコの顔はもう青ざめてはいなかった。怒りに頬を紅潮させ、獣のように鋭い目つきでハグリッドを睨んでいる。それどころか彼の右手には、すでに杖が握られていた。クリスはその杖が振り下ろされない事を祈りながら、ローブを掴む手により力を込めた。
 願いは通じたのか、長いようで短い時間の後、ドラコはやっと杖をローブに収めた。

「……よーし。それじゃあ出発するぞ、これから俺達がする事は本当に危険なんだ。命が惜しかったら、黙って俺について来てくれ」
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