第31章 【to be or not to be】
フィルチは所々抜けた歯を見せ、薄気味悪くにやっと笑った。逃げるって、そもそもいったいどこへ連れて行くつもりなんだろう。結局ここでも知らされぬまま、一向は校庭を横切り禁じられた森の近くへ来た。
緊張のせいだろうか、神経が過敏になっている気がする。夜空を仰ぐと、白銀の月が不気味なほど輝いて見えた。そして何より、あの不吉の赤い星がこの前より確実に大きく輝いていた。まだこれ以上、あの星は何を運んでこようというのだ。
嫌な胸騒ぎを覚えるクリスだったが、遠くの方から聞こえた声にほっと胸をなでおろした。
「そこにいるのはフィルチか?俺はこっちだ、さあ急いでくれ。もう出発しなけりゃならん」
今以上にハグリッドの声を頼もしく思ったことは無い、クリス達はそう思った。しかしフィルチはそれを見越したようにまた意地悪くみんなを怖がらせた。
「あんな役立たずと一緒で安心なんて、お前達もずいぶん甘いねぇ。これから行く所で……禁じられた森の中であの脳足らずがどれほど役に立つと思っている?あいつじゃ森の獣たちを怒らせるのが精々だよ」
「禁じられた……森?」
この言葉を聞いて、5人は立ち止まった。罰則といえば、普通は書き取りや罰掃除のはずだ。それをこんな夜中に、危険な魔物が住みついているとされる森に向かわせられるなんて誰が予想しただろう。
歩みを止めたクリスたちのもとに、痺れを切らしたハグリッドが近づいてきた。大きなファングを従え、肩には大きな石弓を担いでいる。いかにも「これから危険な所に向かうぞ」という出で立ちだった。
「なにやってんだフィルチ、もうとっくに時間は過ぎてるんだ。俺としてはこいつ等のためにも、少しでも早く始めて、少しでも早く終わらせてやりてえんだ」
「罰則だというのに、随分とお優しいことだなハグリッド」
「たかがここまで連れてくるだけの役目の癖に、偉そうに説教をたれるお前に言われたくねえな。お前ぇの仕事はここまでだろう。さあ、さっさと城へ戻れ!」
「それじゃあ、城へ戻ってこいつらの棺桶でも用意しておくかな。大きさは……適当でいいな。どうせ誰も五体満足では帰って来られないだろうからな」