第30章 【チャーリーからの手紙】
「でも、無理して来た甲斐があったよ。これでやっと本物のリッジバックを直にお目にかかれるんだ。わくわくするよ――さあて、それじゃあお待ちかねのご対面といこうか」
チャーリーはハリーとクリスとハーマイオニーを木箱から遠ざけると、友人達と5人がかりで、ドラゴンを牽引できる特別な器具でノーバートを拘束した。木の箱だと、運んでいる途中で壊されてしまう可能性があるらしい。
流石にプロの手際は鮮やかで、数分後にはノーバートを連れて行く準備が全て終わってしまった。3人は最後にチャーリーとその友人達と握手をし、礼を言って彼らを見送った。
「行っちゃったね……」
「そうだね……」
「これで終わったんだね……」
「ええ……そうよ!」
ノーバートを連れたチャーリー達が見えなくなったのを確認すると、3人は笑顔で顔を見合わせた。
今まで色々あったが、苦労した分だけ達成感が湧き上がって来る。
「これで本当に全部終わったんだわ、最っ高の気分よ!歌でも歌いたくなっちゃう」
「うん、止めてね」
小躍りしながらはしゃぐハーマイオニーに、ハリーが笑顔のまま釘をさした。クリスもこれまでに無いほど興奮していたが、チャーリー達が去った空を見上げ、ある物を見た時、少しだけ胸に不安が戻ってきた。火星が――占星術では厄災の象徴とされる赤い星が、いつもより強く輝いている。
「嫌だな。なにか、不幸なことがおこらなきゃいいけど……」
「不幸ですって?あるわけ無いじゃない、もう全部終わったのよ!」
「そうそう、早く帰ってロンに教えてあげようよ!」
スキップしながら螺旋階段を降りる2人の後を、クリスは納得いかない様子で着いていった。たしかにクリスも100%占いを信じているわけじゃないが、何か……大切な何かを忘れているような気がする。
その“何か”が何なのか分かった時には、もう全てが遅かった。談話室へ帰る途中、どこからともなくミセス・ノリスの鳴き声が聞こえ、3人はとっさに柱の影に身を隠した。その時に本来ならあるはずの“何か”が――“透明マント”さえあれば、これから起る災難に遭わなくてすんだのに。