第30章 【チャーリーからの手紙】
そしてとうとう、待ちに待ったノーバートを連れて行く日がやってきた。クリスたちが小屋に着いた頃には、もうハグリッドがノーバートを大きな木箱に入れた後だった。運が良い、これでロンのように噛まれずに済む。
「長旅だから、餌もたんと入れておいた……それに寂しくないよう、クマちゃんのぬいぐるみも入れてやったんだ」
ハグリッドはハンカチだけでは足りず、ベッドカバーを涙と鼻水で濡らしに濡らしていたが、クリスたちにそんな事を気にしている余裕は無かった。今彼女達の頭にあるのは、どうやってこの大きな木箱を見つからないように、またどう効率よく天文台の塔の上まで運ぶかだった。
「私たちでこっちを持つから、ハリーは向こうをお願いね。階段を上るときはハリーが上で、私たちが下よ。2人いればもし何かあって片方が手を滑らしても、もう片方がいるわ」
「うん、分かった。2人とも疲れたらすぐに言ってよ」
「ここから行くとなると、今日はいつも通る道より西階段側の通路を行った方がいいな。そっちのほうが道は少し狭いけど近道だ」
塔までの道順を話すクリスに、他の2人の眼が注目した。正しくは、クリスの持つ召喚の杖にだ。
「なんだ?そんなジロジロ見て」
「いつもの事ですっかり忘れてたけどさ、それ持っていくつもりじゃないよね?」
「お願いだからここに置いていってちょうだいね。大切なのは知ってるけど、片手で運べるほどノーバートは軽くないのよ?」
「そんなこと言ったって、父様から決して手放すなって言われてるんだから無理だ」
ここまできて、またクリスのワガママが始まったと、ハリーたちは眉をひそめた。しかしいつまでもこんな事で押し問答を続けて、時間を割くわけには行かない。
「分かったわ、杖は持っていってよろしい。ようは手が空けばいいんだから」
ハーマイオニーはノーバートの箱を縛るために使ったヒモの残りを手に取ると、そのヒモで召喚の杖をクリスの背中にぐるぐる巻きにして括りつけた。確かにこれなら両手は空くが、ダサイ、ショボイ、カッコワルイの3拍子だ。クリスは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……ああ、伝統ある召喚師のイメージが……」
「文句言わない。さあ、出発するわよ」